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試行調査から見た大学入学共通テストの傾向と対策
現行の大学入試センター試験(以下、センター試験)に代わり、2020年度から実施される大学共通テスト(以下、共通テスト)。2回の試行調査から見えてきた傾向と対策について、近藤治・河合塾中部本部長に語ってもらった。
どう変わる?
学力の三要素の一つで、共通テストで新たに問われることになる「思考力・判断力・表現力」は、これまでの国公立大の二次試験や私立難関の入試でも問われてきた。目新しいのは、50万人の規模で一斉に測ることだ。
今回の試行調査での問題文の分量は、1回目の前回に比べると減ったものの依然多い。図や写真など資料数が多いのも特徴だ。答えを得るのに必要な情報が文章や図表など、さまざまなところに分散しているのも変わらない。必要な情報を取捨選択し、結び付ける作業が必要だ。センター試験もここ10年少しずつ変わってきて、英語でも歴史でも図表などがたくさん出ていたが、今回の完成形の試行調査では、もう少し踏み込んだ力を測ろうという意図が感じられた。教科書に出ていないことも出題されているが、よく考えれば解けますよというメッセージ性を感じる。
センター試験は知識を覚えているかどうかに重きを置いていた。答えがあっていたらいいというのがセンター試験だとしたら、試行調査からみる共通テストは、その答えに至るまでの思考を問おうとしている。ヤマ勘では答えられない問題が多い。
影響は?
指導する高校教員側は非常に困っている。共通一次、センター試験と何十年も蓄積された指導のノウハウが使えない。生徒たちも不安だろう。センター試験で点数がとれない人の多くは、時間が足りなかったというのが理由。なので、時間配分を考えて解くトレーニングが有効だが、初年度の共通テストの問題文の分量がどのくらいになるかわからないので、時間配分を意識した練習がしにくい。
また、明らかにセンター試験より難易度が上がっており、成績上位層の試験としてはフィットするだろうが、低い点で差がつかない恐れがある。これまでセンター試験の成績を利用してきた私立大が、共通テストを使う場合に影響が大きいだろう。使わない大学も出てくるかもしれない。
対策は?
これまで一つの問題に答えが一つだったが、その答えにたどりついた過程を共通テストで見るとなると、他の人と異なる考え方をシェアする勉強法は有効。世の中の答えは一つではないと視野を広げられる考え方も必要になってくる。文章を読み解く力も大切なので、新聞はテーマも豊富だし、読むと良いだろう。特に社説や分析記事、記者の意見が入ったような記事がいい。また、過去の小論文の解答例を見るのも良い。同じテーマでも別の人は違って考えるというのがよく分かる。世の中にはいろいろな考え方があり、いろんなことを総合して自分の答えを見つけることが必要となり、これが、学力の三要素の一つで「主体性を持って多様な人々と学ぶ態度」を測ることにつながる。今回の入試改革の趣旨の一つは、入試を変えることで、高校教育や小中学校の教育のあり方も変えるということだが、アクティブラーニング型の授業も増えてくるだろう。
ただ、これらはあくまで第二ステップ。まずは前提となる知識の定着が大事。センター試験の対策にプラスした勉強が必要になってくるから大変だ。
記述式は?
国語の記述式問題は本来、受験生がどう考えたか主観的な意見を書かせたいのだろうが、正答に必要な条件を押さえ余分なことは書かないという問題になっている。共通テストでの記述式の限界ともいえるが、書く力が必要ということを問うたのは大きい。最近の人はパソコンやスマートフォンを使っているのでいざ書けといわれても書けないから、文字を書くことに慣れるところからスタートしないといけない。採点は、内容重視で誤字脱字は許容するという方針だが、国語の問題としてはどうかとは思う。
複数の文章を読み解きながら条件を満たしつつ解答するという記述式問題は今まであまりなく、慣れが大切になってくる。過去のセンター試験を、選択肢を伏せながら解答を書いてみるという練習も良いかもしれない。
数学は三問中、二問で数式を問い、記述式にした意味はあまりないように感じた。国語と同様、採点の正確性やスピードを優先させた作問といえるだろう。ただ、国語では、記述式問題がかたまって1つの大問として用意されていたが、数学では記述式とマーク式が混在していたので、心の準備ができていなかった人も多かっただろう。全体的に問題量が多く、時間が足りなかったこともあると思うが、記述式問題で無回答の人は多かった。
自己採点の不確かさも問題。自己採点の方法について、高校側や予備校でも新たに指導していく必要がある。共通テストに対応した模試を受けて対策するのが良いと思う。模試は塾に入ってなくても受けられるし、いろんな社の模試を受け、さまざまなパターンの問題で練習することを勧める。
今後は?
今回の入試改革は第一弾。本格的に変わるのは2024年度の実施分から。記述式問題も数学や国語以外の教科に広がるとされる。今回の入試改革の初年度を経験する現高校2年生と、24年度の入試を初めて受ける現中学1年生は最も大変だろう。一つ申し上げたいのは、今回の入試改革を巡る関係各所の動きが遅すぎるということ。特に遅いのが、大学の動き。共通テストの詳細が発表されないと対応が決まらないというのは分かるが、記述式問題をどう扱うのか。英語の民間検定試験でも感じたが、もっと早く決めて発表すべきだ。受験生にとって大学入試は人生がかかっている。共通テストを実施する側の準備不足や採点ミスが合否に影響することがあってはならない。今回の試行調査の結果も受け、十分準備し、トラブルなく共通テストを実施していただきたいと願う。
(2019年4月5日)
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