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主体性評価とは-1 自分の学び「見える化」 eポートフォリオ

 2020年度実施の大学入試から、学力の3要素の一つ「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の多面的、総合的な評価、すなわち「主体性評価」が本格的に始まる。つかみどころのないものを、どう表し見極めるのか。国の高校・大学一体の教育改革「高大接続」の現場から、課題を探る。初回は、評価に使えると注目され始めた「eポートフォリオ」を紹介する。 (大沢悠、芦原千晶)

行動振り返り成長

 「なんて大会名だったかな」。平日の放課後、愛知県江南市の私立滝高に通う1年の女子生徒が友人と、スマートフォンを見つめていた。画面には「活動記録作成」の文字。1人が「愛知県高等学校新人戦剣道大会…」と打ち込んでいく。

 生徒たちが入力していたのはeポートフォリオの機能を持つデジタルサービス「Classi(クラッシー)」。ポートフォリオとは、もともと画家などの作品集を表す言葉。教育現場では生徒の「学びの記録」を示し、eは「電子化された」の意味。

 日々の学習からテストの結果、部活動、英検などの資格まで。生徒の情報を紙の資料でためている学校も多いが、eポートフォリオでは、生徒自身がIDやパスワードを使い、スマホなどでインターネット上に記録して蓄積できる。ベネッセやリクルートといった民間企業などが開発し、サービスを提供する=表。

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 愛知教育大付属高2年の女子生徒(17)は半年前からクラッシーを使い、授業外で学習した時間を科目ごとに毎日記録する。「最初は時間も取られるし、めんどくさく感じた。でも学習時間が可視化され、この教科は勉強が足りていないなとか思うようになった」。担任教員のコメントの返信も楽しみの一つ。今は寝る前に入力する習慣がついた。愛知県内の私立高1年の井上きららさん(15)もパソコン部での活動などを入力。「書くことで自分の考えや思いをまとめられる」

図

 滝高ではクラッシーを導入後、教養講座への生徒の参加が増えた。中島政彦校長(66)は「eポートフォリオに残すために参加したかもしれないが、興味を広げたり進む道を発見したりするきっかけになっている。目的もなく、だらだらと過ごしていた子が、記録して振り返ることで自分の行動を意識するようになった」と話す。

 金沢工業大では全1年生に独自のeポートフォリオを課し、学習の履歴や課外活動のほか、下宿生が多いことからバイト、食事をしたかどうか、睡眠や運動時間も入力させる。毎週目標を立てて振り返らせ、教員が内容を確認して助言。ただの日記にならないよう、定期的にルーブリック(達成度指標)で自己評価させることで自分の成長が実感できるという。「目標を達成した時は自信になった」「記録を見直して就活に生かせた」と学生たち。

 eポートフォリオの名付け親、東京学芸大の森本康彦教授(50)は「学びのアルバムのようなものだが、一番大事なのは振り返り、気付くこと」と強調。野球部員が全国大会という目標に向け、試合や練習の内容、課題を書き込む「野球ノート」に例える。「ノートには多くの記録が残され、迷った時に読み返し、次の練習につなげられる。子どもたちが学んだ過程を見える化でき、ネットで共有できるのがeポートフォリオ」

国、入試での活用研究調査

スマートフォンからeポートフォリオを開き、活動記録を入力する女子生徒=愛知県江南市の滝高で
スマートフォンからeポートフォリオを開き、活動記録を入力する女子生徒=愛知県江南市の滝高で

 グローバル化が進み、複雑化する時代を生き抜くために、国は「学びに向かう力」が必要とし、小中高校で養うことを重視し始めている。大学入試改革では、主体性を評価するよう大学側に求め、高校の調査書や志願者が記した活動報告書、志望理由書などの積極的な活用を呼び掛ける。そこにeポートフォリオが利用できるという。

 「生徒の学びの過程を書き込んでいくeポートフォリオだからこそ、学びに向かう力を見ることができる」と語るのは、関西学院大アドミッションオフィサーの尾木義久さん(53)。関学は他大学とともに国に委託され、主体性評価に特化したeポートフォリオ「JAPAN e-Portfolio(JeP)」を開発。民間のeポートフォリオとも連携し、生徒が大学の求めに応じて必要な記録だけを選び、ネットで提出できる仕組みを作った。

 eポートフォリオには失敗の体験も含め高校時代の膨大な記録がある。尾木さんはこれを基に、どう主体的に学んできたかをまとめ直すことで、大学側が主体性を評価する材料として使えると説く。先の中島校長も「例えば教養講座に参加すると決め、行くこと自体が主体性ではないか。入試で使えるかは分からないが、eポートフォリオの記録を基に主体性を判断することはできると思う」と話す。

 対象となる1年生からeポートフォリオを導入する高校は増加。尾木さんによると、全国で40万人ほどの高校生が使っている。

 ただ、実際には「学校に言われたから入力している」「使い方がよく分からない」と話す生徒も。導入を見送っている静岡県立掛川西高の駒形一路教諭(55)は「記録のためにボランティアやセミナーに参加しなくてはとなると本末転倒。きゅうきゅうとした高校生活になれば生徒がかわいそうだ」と懸念した。

 次回は、運用が始まったJePの仕組みや調査書との関連などを報告する。

(2019年1月6日)

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