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2014.09.27
国宝 織部の「焼き物教科書」 愛知文教大前学長解明 多治見で初公開
茶人としても知られる武将古田織部(1544〜1615年)が薩摩藩島津家に宛てた国宝の自筆の手紙が、岐阜県多治見市の県現代陶芸美術館で開催中の「大織部展」(中日新聞社などでつくる実行委員会主催)で一般に初公開されている。見つかっている織部の文書で唯一、焼き物を指導する内容で、愛知文教大前学長の書跡史学者増田孝さん(66)=千葉市=が織部直筆であることを解明した。(中川耕平)
手紙は江戸時代初期の1612年11月22日付で、島津家17代当主義弘宛て。薩摩に派遣した織部の弟子、上田宗箇(そうこ)へのもてなしを感謝し、送られてきた薩摩焼の肩衝(かたつき)(茶入れ)について助言している。
原文の手紙を現代語に訳すと「釉薬(ゆうやく)が良くない。黒い釉薬を多く使い、所々に白色が混じるのも良い」。焼き物の形については「背を高くし、底部がすぼまないように」と指導している。
手紙は「島津家文書」の一部。文書には平安末期−明治初期の1万5133点がまとめられている。1955〜57年に東京大に譲渡され、付属機関の史料編纂(へんさん)所に保管されている。2002年に国宝に一括指定された。
織部は独自の茶の湯文化を確立し、焼き物の発展に貢献したことで知られる。増田さんが大織部展の図録の解説を依頼されて鑑定し、筆跡や特徴から織部の自筆と確認した。
増田さんは「織部は謎の多い人物。焼き物研究者の間でも文書の存在はほとんど知られていない。織部が実際に陶磁器作りに携わっていたことや、影響が全国に及んでいたことを示す貴重な資料」と評価する。
大織部展は10月26日まで。茶わんを中心に国宝、重要文化財を含む160点が並ぶ。織部の手紙は9月30日までの期間限定で展示される。
■織部の書状の現代語訳
去る9月20日のお手紙が今日届きました。
一、肩衝を2つお上(のぼ)せくださいました。いつもご丁寧なこと、厚くお礼を申し上げます。
一、宗箇が下りました時、いろいろご懇切にしていただき、私もありがたく存じます。さて、宗箇が上られた時に持参された焼き物は散々な良くない物でした。詳しくはお手紙に書いた通りです。着きましたか。宗箇の好みで焼いた物はどれもだめです。致し方ないことです。
一、ただ今着きました肩衝は2つとも形が良い物です。しかしながら釉薬は良くありません。薬は黒めの釉薬をたっぷりとかけるほうが良いでしょう。所々に白が混じるのも良いでしょう。形は(専門家に)成形させるほうが良いでしょう。今お上せになった茶入れよりも少し背を高く作らせた方が良いでしょう。これくらいで大きさは良いと思います。尻がすぼまらないようにおっしゃってください。口や肩は良いと思います。2個のうち釉薬の黒い方をいただきます。もうひとつはご覧になるために返進いたします。恐惶謹言(きょうこうきんげん)
なお、遠い所をたびたびご連絡いただきありがとうございます。こちらでのご用はご遠慮なくおっしゃってください。江戸やこちら(上方)はかわったこともございません。「伊平左」まで使者を頼みました。(増田孝さん訳)
※恐惶謹言 おそれ謹んで申し上げるの意
(2014年9月27日 中日新聞朝刊37面より)
手紙は江戸時代初期の1612年11月22日付で、島津家17代当主義弘宛て。薩摩に派遣した織部の弟子、上田宗箇(そうこ)へのもてなしを感謝し、送られてきた薩摩焼の肩衝(かたつき)(茶入れ)について助言している。
原文の手紙を現代語に訳すと「釉薬(ゆうやく)が良くない。黒い釉薬を多く使い、所々に白色が混じるのも良い」。焼き物の形については「背を高くし、底部がすぼまないように」と指導している。
手紙は「島津家文書」の一部。文書には平安末期−明治初期の1万5133点がまとめられている。1955〜57年に東京大に譲渡され、付属機関の史料編纂(へんさん)所に保管されている。2002年に国宝に一括指定された。
織部は独自の茶の湯文化を確立し、焼き物の発展に貢献したことで知られる。増田さんが大織部展の図録の解説を依頼されて鑑定し、筆跡や特徴から織部の自筆と確認した。
増田さんは「織部は謎の多い人物。焼き物研究者の間でも文書の存在はほとんど知られていない。織部が実際に陶磁器作りに携わっていたことや、影響が全国に及んでいたことを示す貴重な資料」と評価する。
大織部展は10月26日まで。茶わんを中心に国宝、重要文化財を含む160点が並ぶ。織部の手紙は9月30日までの期間限定で展示される。
■織部の書状の現代語訳
去る9月20日のお手紙が今日届きました。
一、肩衝を2つお上(のぼ)せくださいました。いつもご丁寧なこと、厚くお礼を申し上げます。
一、宗箇が下りました時、いろいろご懇切にしていただき、私もありがたく存じます。さて、宗箇が上られた時に持参された焼き物は散々な良くない物でした。詳しくはお手紙に書いた通りです。着きましたか。宗箇の好みで焼いた物はどれもだめです。致し方ないことです。
一、ただ今着きました肩衝は2つとも形が良い物です。しかしながら釉薬は良くありません。薬は黒めの釉薬をたっぷりとかけるほうが良いでしょう。所々に白が混じるのも良いでしょう。形は(専門家に)成形させるほうが良いでしょう。今お上せになった茶入れよりも少し背を高く作らせた方が良いでしょう。これくらいで大きさは良いと思います。尻がすぼまらないようにおっしゃってください。口や肩は良いと思います。2個のうち釉薬の黒い方をいただきます。もうひとつはご覧になるために返進いたします。恐惶謹言(きょうこうきんげん)
なお、遠い所をたびたびご連絡いただきありがとうございます。こちらでのご用はご遠慮なくおっしゃってください。江戸やこちら(上方)はかわったこともございません。「伊平左」まで使者を頼みました。(増田孝さん訳)
※恐惶謹言 おそれ謹んで申し上げるの意
(2014年9月27日 中日新聞朝刊37面より)