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中日新聞掲載の大学記事

2014.03.19

第二の人生は博士 名古屋 「近松研究」67歳と「色素解明」70歳

 この春、名古屋に2人のシニア博士が誕生した。南山大大学院の岡田守正さん(67)=名古屋市中川区=は近松門左衛門を題材にした研究で博士号を取得。名古屋市立大大学院の岩瀬彰孝さん(70)=天白区=は特殊な色素の分子構造を解明した研究論文がオランダの化学誌に掲載。「学びたいことはまだたくさんある」。第二の人生を研究にささげた2人の学究の旅は続く。(北島忠輔)

 岡田さんは名古屋市の高校を卒業後、証券会社に勤務。1999年、52歳の時に早期退職に応じた。「残りの人生は好きなことを」と一念発起。国文学研究に定評のある愛知淑徳大に合格した。サラリーマン時代に見た演劇「近松心中物語」が頭の片隅にあり、関心は原作に向かった。

 若い学生に交じって最前列で講義を聴く毎日。大学と大学院修士課程では飽き足らず、2011年、南山大大学院国際地域文化研究科の博士課程へ。演劇研究の第一人者でもある安田文吉教授と出会った。

 研究テーマに選んだのは近松の「三大姦通(かんつう)劇」。江戸時代にご法度だった男女の不義を題材に葛藤を描いた作品だ。口語に訳し、史実を調べるうちに「事実よりも、ドラマチックに仕立てて魂の救済を描く作劇法にひかれた」と岡田さん。この研究で博士の学位を得た。

 「好きな世界を掘り下げるのは楽しい。さらに前に進みたい」。21日にガウンを着けて授与式に臨む。

 好奇心に突き動かされたのは岩瀬さんも同じ。高校の理科教員を定年後、名市大大学院のシステム自然科学研究科に進んだ。08年、64歳の時だった。

 指導教官の提案を受けて、酸性の物質に反応すると黄色、アルカリ性だと赤紫色に変わる珍しい色素の研究に取り組んだ。

 仮説を立てては研究室で実験し、失敗を繰り返した。でも「誰も分析できなかった化合物への挑戦が楽しかった」。色素の分子構造を解明し、合成に成功した時は「同じ実験を半年続けたこともあった。手探りだったが『やるんだ』という意気込みが報われ、感無量だった」と話す。

 論文の英訳は1年がかり。昨年4月に化学雑誌に載り、今春、博士号を授与された。「私のようなリケジイ(理系のじいさん)にも、活躍の場はある。老け込むのはまだ早い」

(2014年3月19日 中日新聞夕刊10面より)

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