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中日新聞掲載の大学記事

2014.03.10

名古屋ウィメンズマラソン 祖母の笑顔とゴールの喜び

■刈谷の学生・原田さん20歳の春

 青空が広がり、ランニング日和に恵まれた9日の名古屋ウィメンズマラソン。早春の名古屋の風物詩として定着し、1万4600人余のランナーが各自の限界に挑み、力走した。思いを届けたいのは、家族や友人、恋人、被災地−。沿道からの熱い声援にも応えながら駆け抜けた。

 おばあちゃんに、また笑ってほしい。刈谷市高倉町の名古屋経済大2年生原田果奈さん(20)は、認知症が進む同居の祖母貞子さん(84)のために走りきり、自宅に帰って首に完走賞のペンダントを掛けてあげた。どこまで理解してくれたかは分からない。ただ「きれい」とほほ笑む姿に、ようやくゴールの喜びに浸った。

 貞子さんは、原田さんが幼いときから仕事に出る両親の代わりに遊んでくれたり、「お母さんには内緒」とほしいものを買ってくれたり。朝ごはんの卵焼きやみそ汁は絶品だった。

 そんな貞子さんに認知症の兆候が表れたのは高校時代。でも、バスケットボールに夢中で変化に気づけず、知らず知らずのうちに笑みも孫の記憶も失っていった。

 自分に何ができるのか。おしゃれ好きだった祖母にペンダントを連想した。「頑張ったんだよと首に掛けて贈ったら、喜ぶかな」。お金では買えない努力を見せようと思った。

 2年越しの挑戦だった。昨年も同じ思いで走ったが、折り返し地点をすぎたところで意識を失った。気づいたら病院のベッドの上。駆け付けた母真弓さん(49)は娘の第一声を覚えている。「お母さんごめん、おばあちゃんにもごめん」。悔しさと怖さのはざまで再挑戦には二の足を踏んだが、昨年9月に今大会の出場募集が始まると迷いは消えていた。

 「ゆっくりでいい」と完走を最優先に臨んだ。沿道の声援に「支え」を実感しつつペースを上げ、目標の4時間半を切った。ゴールで頭に浮かんだのは、自分を支えてくれた両親や祖母の顔だった。

 自宅に持ち帰ったペンダントを首に掛けると貞子さんは「果奈ちゃん、ありがと」と繰り返し、お返しに、真弓さんと作った金メダルをくれた。油性ペンで「おめでとう ありがとう」。光り輝く唯一無二の完走賞に、果奈さんは「うれしい」と、この日1番の笑顔を見せた。 (赤川肇)

(2014年3月10日 中日新聞朝刊県内版より)

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