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中日新聞掲載の大学記事

2008.07.04

『本当に環境にいい?』中部大教授が意見

 7日の地球温暖化防止などをテーマにした「洞爺湖サミット」開幕を目前に控えて、いよいよ盛り上がるエコ活動。その代表格ともいえるレジ袋や割り箸(ばし)の拒否は「偽善」とする本が注目されている。これに対し「せっかく努力していたのに、どうしていいかわからなくなった」などの声が出ている。そこで調べてみた。本当のところ「レジ袋」「割り箸」は悪者なのか。(片山夏子、関口克己)

 この本のタイトルは『偽善エコロジー「環境生活」が地球を破壊する』(幻冬舎新書)。著者は中部大総合工学研究所(愛知県春日井市)の武田邦彦教授。武田教授は「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」などの著書もあり、科学者の立場から環境問題の本質や資源、エネルギー問題についても積極的に発言している。

 「偽善エコロジー」の中で、武田教授は各地で進むレジ袋削減運動について「ただのエゴ」と判定している。

 理由は次のとおりだ。「レジ袋は石油の成分のうち、かつては使えずに燃やしていた成分から作られる。いわば“廃品”を有効利用したものでむしろ環境にはいい。また、かつてはごみを捨てる時にレジ袋を再利用していたが、なくなれば、専用ごみ袋や買い物袋を買わなければならない。これらも石油で作られており、石油の消費量はほとんど変わらない。スーパーの経費削減と売り上げ増に貢献するだけだ」

 ただしレジ袋の削減運動は確実に広がっている。大手スーパー・ジャスコなどを経営するイオンは、17年前から買い物袋持参運動を展開。全国360店舗でのマイバッグ持参率は22%に。同社によると、昨年2月までの1年で約2億3500万枚のレジ袋を削減した。担当者は「200リットルのドラム缶2015本分の石油が毎月、削減されている」と説明する。

 また、グループ企業を合わせて計112店舗で、レジ袋の無償配布を廃止。1枚5円で販売したレジ袋の収益金は、地域の市民団体などへの寄付と二酸化炭素排出権を政府に無償譲渡するのに使う。「目に見える形でごみを減らすことで、環境意識を高めるきっかけになれば」と期待する。

 東京都杉並区は今年4月、スーパーなど小売り事業者に、レジ袋有料化など削減の計画書を出すことを義務付ける条例を施行した。

 森山光雄・ごみ減量担当課長は「全国では年間300億枚、区内でも1億2000万枚のレジ袋が消費されていた。ごみ袋として再利用する人もいるが、ごみの組成調査をしたところ、半数が捨てられていることが分かった」と理由を説明する。

 昨年、実証実験としてごみ袋を有料化したスーパーでは、2カ月半でマイバッグ持参率が3割から8割に上がり、20万枚削減した。同区内の大丸ピーコック3店舗でも、4月以降、持参率が8割前後になったという。

 それでも石油の消費量は総計で変わらないという武田教授の主張はどうか。

 百貨店の共通レジ袋などを作る繊維メーカー帝人は反論する。同社の場合、使い終わった企業の制服など繊維製品を回収し、原料のポリエステルに戻してエコバッグを作る。「海外製のエコバッグなどで石油から作られたものがあると思うが、うちは新たに石油は使わない。ごみになるものを再利用する」と担当者。

 だが、レジ袋減量ネットワークの羽賀育子代表は、こう語る。

 「牛乳パックの再利用運動の時、リサイクルという言葉や資源を大切にしようという意識を広めた意味は大きかったが、一方でメーカーが紙パックを大量に出すという一面もあった。レジ袋も環境意識向上の意味は大きいが、カラフルなエコバッグは焼却すると有害物質を出してしまう。一面だけ見るのではなく多面的にみるべきだ」

(2008年7月4日 中日新聞朝刊32版より)
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