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お知らせ 2018.12.26
国立大 生き残りへ先陣 少子化と予算減 研究競争激化 名大・岐大 法人統合
名古屋大と岐阜大が運営法人の統合で基本合意し、2020年春にも新たな国立大学の姿を示すことになった。一つの法人が複数の大学を運営する法人統合は他地域でも模索の動きが進む。背景には、少子化による学生減と研究の国際競争の激化で、「学問の府」を取り巻く環境の変化がある。(安福晋一郎、高橋貴仁、鎌倉優太)
■交錯する思惑
17年1月、名古屋駅前の高層ビルの一室に東海地方の複数の大学幹部が集まった。論題は、1法人複数大学の実現。「一緒にやってくれますか」。名大の松尾清一学長の投げ掛けに「やりましょう」と応じたのが、岐阜大の森脇久隆学長だった。
名大は当時、国がトップレベルの大学として規制緩和や予算面で集中支援する「指定国立大学法人」への申請期限が迫っていた。大学間競争を勝ち上がるために指定は悲願。選定時にアピールできる「スペードのエース」(名大幹部)が必要だった。
国から配分される運営費交付金の規模で、名大は東京大の4割弱。旧帝国大の中で最も小さく「都市の潜在力に見合う規模が足りない」ことが悩みの種だった。単体の大学では限界があるため、東海地方の大学群を1法人の傘下に集めることで、規模を拡大する案を温めてきた。
岐阜大の同意を取り付けたことで、東大、京都大、東北大に次いで18年3月、東京工業大と共に指定国立大学法人に選ばれた。
■迫られる改革
一方、地方の国立大学は学生と予算の減少に苦しむ。
文部科学省によると、全国の18歳人口は1992年の205万人をピークに、17年は120万人。推計では40年に88万人まで減る。
予算面では、04年の国立大学法人化後、運営費交付金が毎年1%程度ずつ減額。代わりに研究ごとに獲得す
る「競争的資金」の割合が増えてきた。規模の大きな法人ほど資金や人材を獲得しやすく、小さい法人には不利な仕組みだ。
岐阜大の森脇学長は法人統合について「『大学の機能強化』は表向きの目的。今後、厳しい状況になるのが目に見えている」と打ち明ける。得意とする生命科学分野の糖鎖研究などを重点強化する狙いもあり、法人統合を選んだ。体力のあるうちに、将来にわたって大学の独立性を保つ道でもあった。
■再編の波
大学そのものの統合が簡単ではない中、文科省は12年の大学改革実行プランで「1法人複数大学方式」を盛り込み、ハードルの低い方法で再編を促そうとしてきた。法改正を視野に入れた検討会議も9月から始めた。現在、北海道や奈良県など4グループで法人統合の話が進む。
その一つ、静岡大(静岡市)と浜松医科大(浜松市)は新法人の下、浜松市にある静岡大の工、情報の2学部と浜松医科大を新たな大学に再編する計画だ。しかし、年末までに合意する当初予定はずれ込んでいる。静岡大で「資金を得やすい学部を浜松医科大に差し出すだけで、得るものがない」などと反発があり、合意形成の難しさが浮き彫りになっている。
北海道の小樽商科大、帯広畜産大、北見工業大も、大学同士の距離が遠い問題などから実現には難航が予想される。文科省の検討会議では有識者から「安易な統合や、単に屋上屋を架する運用にならないように」とくぎを刺す意見が相次ぐ。
岐阜大の幹部は「法人統合から2年間くらいは、人件費の節約など目に見える成果は出ないだろう」と話す。統合の作業とコストに見合う資金や人材を本当に確保できるか、ブランド力の強化につながるかが「群れから真っ先に海に飛び込んだファースト・ペンギン」(名大幹部)の課題となる。
(2018年12月26日 中日新聞朝刊3面より)
■交錯する思惑
17年1月、名古屋駅前の高層ビルの一室に東海地方の複数の大学幹部が集まった。論題は、1法人複数大学の実現。「一緒にやってくれますか」。名大の松尾清一学長の投げ掛けに「やりましょう」と応じたのが、岐阜大の森脇久隆学長だった。
名大は当時、国がトップレベルの大学として規制緩和や予算面で集中支援する「指定国立大学法人」への申請期限が迫っていた。大学間競争を勝ち上がるために指定は悲願。選定時にアピールできる「スペードのエース」(名大幹部)が必要だった。
国から配分される運営費交付金の規模で、名大は東京大の4割弱。旧帝国大の中で最も小さく「都市の潜在力に見合う規模が足りない」ことが悩みの種だった。単体の大学では限界があるため、東海地方の大学群を1法人の傘下に集めることで、規模を拡大する案を温めてきた。
岐阜大の同意を取り付けたことで、東大、京都大、東北大に次いで18年3月、東京工業大と共に指定国立大学法人に選ばれた。
■迫られる改革
一方、地方の国立大学は学生と予算の減少に苦しむ。
文部科学省によると、全国の18歳人口は1992年の205万人をピークに、17年は120万人。推計では40年に88万人まで減る。
予算面では、04年の国立大学法人化後、運営費交付金が毎年1%程度ずつ減額。代わりに研究ごとに獲得す
る「競争的資金」の割合が増えてきた。規模の大きな法人ほど資金や人材を獲得しやすく、小さい法人には不利な仕組みだ。
岐阜大の森脇学長は法人統合について「『大学の機能強化』は表向きの目的。今後、厳しい状況になるのが目に見えている」と打ち明ける。得意とする生命科学分野の糖鎖研究などを重点強化する狙いもあり、法人統合を選んだ。体力のあるうちに、将来にわたって大学の独立性を保つ道でもあった。
■再編の波
大学そのものの統合が簡単ではない中、文科省は12年の大学改革実行プランで「1法人複数大学方式」を盛り込み、ハードルの低い方法で再編を促そうとしてきた。法改正を視野に入れた検討会議も9月から始めた。現在、北海道や奈良県など4グループで法人統合の話が進む。
その一つ、静岡大(静岡市)と浜松医科大(浜松市)は新法人の下、浜松市にある静岡大の工、情報の2学部と浜松医科大を新たな大学に再編する計画だ。しかし、年末までに合意する当初予定はずれ込んでいる。静岡大で「資金を得やすい学部を浜松医科大に差し出すだけで、得るものがない」などと反発があり、合意形成の難しさが浮き彫りになっている。
北海道の小樽商科大、帯広畜産大、北見工業大も、大学同士の距離が遠い問題などから実現には難航が予想される。文科省の検討会議では有識者から「安易な統合や、単に屋上屋を架する運用にならないように」とくぎを刺す意見が相次ぐ。
岐阜大の幹部は「法人統合から2年間くらいは、人件費の節約など目に見える成果は出ないだろう」と話す。統合の作業とコストに見合う資金や人材を本当に確保できるか、ブランド力の強化につながるかが「群れから真っ先に海に飛び込んだファースト・ペンギン」(名大幹部)の課題となる。
(2018年12月26日 中日新聞朝刊3面より)