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中日新聞掲載の大学記事

2015.07.06

半世紀迎える愛知県立芸術大 音楽学部の底上げ課題

■東京一極集中 地道に歩むも影薄く

 愛知県立芸術大が、来年で開学から半世紀を迎える。“中部の文化”を創造する総合芸術大の期待を担い、1966年の設立から名古屋市近郊で芸術家の育成に努めてきた同大にとって、大きな課題は音楽学部の底上げといえるかもしれない。4600人の卒業・修了生を世に送り出し、堅実に地歩を固めてきたものの、際だった存在感を発揮できないでいる。(長谷義隆)

 同県長久手市の緑豊かな丘陵地にキャンパスが広がる愛知県芸大。名古屋都心から遠く「学内に引きこもっている」印象が強かったが、2007年の法人化を機に教授陣による学外コンサートが増えている。

 今年5月15日、名古屋・栄の音楽専用の宗次ホールは、平日昼間の公演にもかかわらず満席だった。聴衆のお目当ては、名古屋出身の「バイオリン王」鈴木政吉(1859〜1944年)が精魂込めて作った高級バイオリンだ。

 この楽器は、政吉の事跡を掘り起こした音楽学部の井上さつき教授(音楽学)の調査の中で発見され、愛知県芸大に寄贈された“お宝”。准教授らによって、ハイフェッツら巨匠バイオリニストが来演した1930年開館当初の名古屋市公会堂での演奏会が再現された。

 この調査の一環で、音楽学専攻の学生たちが戦前の名古屋新聞(中日新聞の前身)を調べて音楽記事のデータベース化を進める。近代の名古屋が洋楽をどう受容したか、地域から見つめ直す作業である。

 ただ、県立の大学ながら地元の芸能風土を掘り下げる研究は近年始まったばかり。“芸どころ名古屋”の伝統音楽についての研究は手付かず状態という。

 客員教授に今春就任して愛知県芸大管弦楽団の指導、指揮に当たる指揮者松尾葉子(名古屋出身)は、知名度の低さを痛感した。「名古屋駅前からタクシーに乗ったら、似たような名前の別の大学に連れて行かれて」

 大学側は対外アピールに努め、名古屋都心で「芸術講座」を開講。音楽、美術両学部合同の「芸大オペラ」、音楽教授陣による東日本大震災復興チャリティーコンサートなどを地道に展開しているが、音楽ファンを超えて一般市民に浸透しているとは言い難い。

■生え抜きわずか

 同時にスタートした美術学部は、国際的に有名な奈良美智ら多くの逸材を出しており「きらりと光る美術大学」と認められている。教授陣も愛知県芸大出身者が多数を占める。これに対し音楽学部は常勤の約30人のうち、学部、大学院とも生え抜き教授は一人しかいない。音楽学部長でバイオリン教授の福本泰之をはじめ、他大学から同大大学院に進んだ修了者3人を含めても愛知県芸大勢は4人。

 一方で、東京芸術大出身者は3分の2を占め、寡占状態は開学以来大きく変わっていない。

 声楽教授の戸山俊樹副学長は「教員採用はすべて公募。1つのポストに30〜50人、ピアノはさらに応募が殺到する。最も重視するのは演奏実技。人柄も見て採用している。近年は現役バリバリの演奏家が入ってくれた。学生は先生の背中を見て育つ」と話す。そして「東京芸術大閥があるかって? それはない。結果としてそうなっているだけ」と強調する。

 しかし、名古屋を拠点に音楽活動をしている卒業生たちからは、母校とその教授陣に対して「縁が薄い」「遠い存在」という不満がくすぶる。音楽の東京一極集中もあって、教授陣の首都圏からの通い組はなお多く「愛知県芸大の先生たちは中央から忘れられないよう東京と愛知を二重拠点にしているのだと思うが、どこか根無し草的」(ベテラン声楽家)という指摘さえ出ている。

 開学当初、全国区の注目を集め13.2倍もの入試倍率を誇った愛知県芸大だが、今春の志願倍率は美術学部が9.2に対して、音楽学部は2.7と低調。志願率でも大きな開きが出ている。

 また、国内最高峰とされる日本音楽コンクールや全日本学生音楽コンクールで在学中の優勝者は出ていない。

 音楽大受験に詳しい教育関係者によると「バイオリンやピアノなど東海地方のジュニア勢のレベルの高さは全国有数」という。「愛知県芸大には老舗コンクールの本選審査員を務めるような大御所も、著名なスター教授もいない。地元期待の若手のよき受け皿になってくれるといいのだが」

 これに対して福本音楽学部長は「本学の学生はとても真面目で、協調性とアンサンブル力、演奏の対応性は高く評価されている」と胸を張る。

■環境整う新校舎

 戸山副学長は「新校舎ができて学生によいレッスン環境が整った。音楽の世界は圧倒的に東京一極集中だが、本学が京都大や大阪大のようなポジションになれるといいと思っている」と語った。

 愛知県芸大は来年秋、総力を挙げて取り組む50周年記念オペラ公演を開く。両輪である美術と音楽が互いに高め合うような新たな半世紀を期待したい。

(2015年7月6日 中日新聞朝刊11面より)
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