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中日新聞掲載の大学記事

2015.01.10

目難病にプラズマ効果 名大 照射液体で症状抑制

 薄型テレビなどに使われるプラズマの粒子を照射した液体を目に注射することで、高齢者に多い目の難病「加齢黄斑(おうはん)変性」の症状を抑えることに、名古屋大の寺崎浩子教授(眼科学)と兼子裕規助教(同)らのグループがヒトの細胞とマウス実験で成功した。プラズマを眼病治療に活用する世界初の成果で、9日付の英科学誌に掲載された。名大は日本のプラズマ医療研究の中心となっており、がん治療や止血など医療に革命をもたらす可能性がある。(社会部・中崎裕)

 加齢黄斑変性は、網膜の下に老廃物がたまって不要な血管が形成される病気で、視力低下や失明の恐れがある。寺崎教授らが、ヒトの血管細胞にプラズマを照射した培養液を入れたところ、新しい血管の形成を9割以上抑えられたほか、病気を再現したマウスの実験でも効果を確認。寺崎教授は「効く理由や期間は未解明で実用化は先。ただ正常細胞への悪影響も今のところ無く、新しい治療の開発が期待できる」と話す。

 成果のカギとなったのは、血管が作られるときに働く物質が、がん細胞の増殖に重要な物質と同じという点だ。現在も抗がん剤と同様に作用する薬を眼球に注射する治療が行われている。名大は独自の技術でプラズマを照射した培養液を開発し、卵巣がんや胃がんなどでがんを死滅させる研究成果を挙げており、今回の研究につながった。

 プラズマは気体となった物質の原子から電子が離れた状態で、十数年前に大気中で人工的に作れるようになった。メスなどとして使えばより細かな手術が期待でき、傷口に照射すると殺菌し止血する効果もある。

 文部科学省は2012年に名大を医療応用の研究拠点に選定。13年に発足した名大プラズマ医療科学国際イノベーションセンターが、全国の研究機関の中心を担う。産業技術総合研究所と5年以内の実現を目指す手術時の止血が、臨床第1号と期待されている。

 「半導体での蓄積を生かして全国の各分野の研究者が連携しており、日本は今やこの分野で世界トップ」と研究代表を務める名大の堀勝教授。共同研究する名大病院の水野正明教授は「プラズマは生命の根源に関わる神の手。扱いが難しいが魅力も大きい」と語る。

(2015年1月10日 中日新聞夕刊1面より)
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