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2014.01.11
現代人 なぜ生き残った 藤田衛生大 旧人とゲノム比較、謎迫る
ネアンデルタール人などの旧人と、現生人類「ホモサピエンス」のゲノム(全遺伝情報)の比較研究を、藤田保健衛生大総合医科学研究所(愛知県豊明市)の嶋田誠講師(遺伝学)らが進めている。脳や神経の成長・発達に関わる遺伝子配列などについて、旧人と現代人の共通点と違いを調べ、詳しい研究成果を発表する。 (相坂穣)
20万〜3万年前に生きたとされる旧人のゲノム研究はドイツを中心に進んでいる。2010年には、ネアンデルタール人の骨から抽出したゲノムを解読した結果、それまで「別」と考えられていた現生人類にもネアンデルタール人の血が混じっている可能性があることが分かった。
嶋田講師らは、旧人と現生人類の能力や性格の差や、なぜ旧人は絶滅して現生人類が生き残ったのかを解明しようと計画。11年から、独チームがインターネットで公開しているネアンデルタール人5体と、ロシアで発掘された近縁種の旧人デニソワ人1体のゲノムを比較するとともに、現代人1000人以上の全ゲノムのデータベースも詳しく分析して比べた。
その結果、一部の現代人は脳神経機能などに関係する遺伝子の並び方で、ネアンデルタール人やデニソワ人と類似した染色体の配列を持つことが分かった。
嶋田講師らは「現生人類は旧人に比べ、集団生活で『空気を読む力』が遺伝的に高かったため、集団農耕や狩猟で飢餓を克服し、国家など高度な社会システムをつくって繁栄できた」という仮説も立てた。
今後、3人類の人口増減や生息環境、移動範囲などを研究する考古学系チームなどの情報を基に、遺伝性疾患の発症の危険度や免疫能力など、現代人との遺伝的な違いの解明を目指す。
嶋田講師は「医療技術の進歩に比べ、遺伝の多様性に関する知識はまだ足りない。現生人類が旧人と比べ、多様な免疫や体質、性格を得て、生き残ってきたことを明らかにしたい」と話す。
■旅を経て広い適応力 後藤明・南山大人類学研究所長(人類学)の話
太平洋の島々をカヌーで移動するなど、広い世界を旅した人々を研究した結果、現生人類は、地平線や水平線のかなたの世界を想像し、故郷を思い出す能力が備わっていたのではないかと感じた。どちらかというと広い地域で暮らすジェネラリストだが、旧人はローカルな環境に適応するスペシャリスト。人類学的考察と、現生人類と旧人の遺伝子レベルの比較研究成果が結び付くことになれば面白い。
【3万年前に絶滅 ネアンデルタール人とデニソワ人】 ネアンデルタール人は20万年前に出現し、3万年前に絶滅したとされる旧人の一種で、現生人類に最も近い人類とされる。脳の容積は1500立方センチ前後で現生人類と変わらない。欧州や西アジアに分布し、旧石器を作り、火を使用していたとみられる。デニソワ人は、ロシア・シベリア南部の洞窟で4万年前の子どもの人骨が発見されアジアに分布していたとされる。ネアンデルタール人と同時期に存在した近縁種とみられている。
(2014年1月11日 中日新聞夕刊1面より)
20万〜3万年前に生きたとされる旧人のゲノム研究はドイツを中心に進んでいる。2010年には、ネアンデルタール人の骨から抽出したゲノムを解読した結果、それまで「別」と考えられていた現生人類にもネアンデルタール人の血が混じっている可能性があることが分かった。
嶋田講師らは、旧人と現生人類の能力や性格の差や、なぜ旧人は絶滅して現生人類が生き残ったのかを解明しようと計画。11年から、独チームがインターネットで公開しているネアンデルタール人5体と、ロシアで発掘された近縁種の旧人デニソワ人1体のゲノムを比較するとともに、現代人1000人以上の全ゲノムのデータベースも詳しく分析して比べた。
その結果、一部の現代人は脳神経機能などに関係する遺伝子の並び方で、ネアンデルタール人やデニソワ人と類似した染色体の配列を持つことが分かった。
嶋田講師らは「現生人類は旧人に比べ、集団生活で『空気を読む力』が遺伝的に高かったため、集団農耕や狩猟で飢餓を克服し、国家など高度な社会システムをつくって繁栄できた」という仮説も立てた。
今後、3人類の人口増減や生息環境、移動範囲などを研究する考古学系チームなどの情報を基に、遺伝性疾患の発症の危険度や免疫能力など、現代人との遺伝的な違いの解明を目指す。
嶋田講師は「医療技術の進歩に比べ、遺伝の多様性に関する知識はまだ足りない。現生人類が旧人と比べ、多様な免疫や体質、性格を得て、生き残ってきたことを明らかにしたい」と話す。
■旅を経て広い適応力 後藤明・南山大人類学研究所長(人類学)の話
太平洋の島々をカヌーで移動するなど、広い世界を旅した人々を研究した結果、現生人類は、地平線や水平線のかなたの世界を想像し、故郷を思い出す能力が備わっていたのではないかと感じた。どちらかというと広い地域で暮らすジェネラリストだが、旧人はローカルな環境に適応するスペシャリスト。人類学的考察と、現生人類と旧人の遺伝子レベルの比較研究成果が結び付くことになれば面白い。
【3万年前に絶滅 ネアンデルタール人とデニソワ人】 ネアンデルタール人は20万年前に出現し、3万年前に絶滅したとされる旧人の一種で、現生人類に最も近い人類とされる。脳の容積は1500立方センチ前後で現生人類と変わらない。欧州や西アジアに分布し、旧石器を作り、火を使用していたとみられる。デニソワ人は、ロシア・シベリア南部の洞窟で4万年前の子どもの人骨が発見されアジアに分布していたとされる。ネアンデルタール人と同時期に存在した近縁種とみられている。
(2014年1月11日 中日新聞夕刊1面より)