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中日新聞掲載の大学記事

2013.01.08

国内初 臨床研究申請へ 岐阜大など

■歯の幹細胞で脊髄損傷治療 ラットで実験 機能改善

 岐阜大大学院医学系研究科と岐阜薬科大(ともに岐阜市)の共同研究グループは、歯の内部にある「歯髄(しずい)幹細胞」を脊髄損傷患者の体内に移植する治療方法の臨床研究を、夏にも岐阜大倫理審査委員会に申請する。歯髄幹細胞を使った再生医療の動物実験は複数の研究機関で実施されているが、人を対象とした研究は国内初となる。

 臨床研究の対象は、交通事故などで脊髄を損傷した直後の急性期患者。歯髄幹細胞は増殖能力が高く、虫歯の穴を象牙質で守る役割を果たしており、脊髄損傷患者の患部などに移植することで、神経の再生と機能の回復をはかる。同時に、副作用や拒絶反応の有無も検証する。

 研究に使う幹細胞は、歯を治療した人の了解を得て永久歯や乳歯から採取し、あらかじめ培養する。拒絶反応が起きにくい特殊な白血球型を持った人のものだけを使う。

 岐阜薬科大が2011年から12年にかけて実施した動物実験では、脊髄切断で後ろ足の動かないラット15匹の傷口にヒトの歯髄幹細胞を注入する形で移植した。その結果、7週間後に半数のラットが後ろ足で体を支えて歩けるようになり、大半で足の動きが改善された。

 岐阜大の研究グループの手塚建一准教授(再生医科学)によると、脊髄を大きく損傷すると大量のコラーゲンなどが分泌され、時間の経過とともに傷ついた神経の再生が阻害されるとみられる。手塚准教授は「歯髄幹細胞はこの働きを抑え、再生を促す働きがあるのでは」と推測する。

 共同研究グループは今春、幹細胞採取の許可を倫理委に申請。認められれば、具体的な臨床研究の計画書を夏ごろまでに倫理委に提出する。厚生労働省の審査を経て、16年の開始を目指す。

 脊髄損傷は、交通事故やスポーツにより背骨の中の神経が傷つくけがで、下半身などの運動機能がまひする。根本的な治療法が現段階ではないため、車いすの生活となる例が多い。

 歯髄幹細胞 歯の象牙質の内側にあり、神経や血管とともに歯の中心部分の歯髄を構成する細胞の一つ。末梢(まっしょう)神経と同じ細胞から分化しており、神経の再生治療に有効とみられている。歯の硬い組織に保護されているため細胞の状態が良好で、治療で抜いた歯などから比較的容易に入手できる利点もある。

(2013年1月8日 中日新聞朝刊1面より)

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