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中日新聞掲載の大学記事

2008.08.05

障害乗り越え大学へ DO―IT Japanの取り組み

突破口
社会のバリアー、教育が崩す

 肢体不自由、視覚や発達障害を抱えながら大学進学を目指す高校生・高卒者を支援する取り組みが東京都内であった。パソコンなどIT機器を活用し、大学や企業で講義を受け、一人一人の夢をかなえるための知識や能力を身に付ける。先端科学技術を障害者支援に役立てる新しいプログラムの実践の様子を追った。(栃尾敏)

 「受け入れ態勢が整っているから、と大学を選ばないで。好きな学科がある、おもしろい先生がいるとか、自分の行きたい大学に進んでほしい」。7月23日、東京都目黒区の東京大先端科学技術研究センター。これから始まる5日間のプログラムを説明した後、中邑賢龍(なかむらけんりゅう)・同センター教授は参加者に語りかけた。

 車いすの高校生、人工呼吸器を付けた若者…。男性6人、女性6人、年齢は16−21歳。視覚障害、骨がもろく折れやすい骨形成不全症、頸椎(けいつい)損傷による肢体不自由、自閉症の一つのタイプとされるアスペルガー症候群、高次脳機能障害による記憶・言語障害や複雑な文章をうまく頭の中で整理できない−など。軽度から重度まで、参加者12人はさまざまな障害がある。

 東京、神奈川、千葉、群馬、静岡、愛知、山口、熊本など各地の高校生のほか高卒者も2人いる。みんなの思いは一つ。大学進学だ。

 障害のある高校生や高卒者の大学進学を支援するのが今回の「DO−IT Japan」プログラム。「Disabilities(障害)」「Opportunities(機会)」「Internetworking(インターネット活用)」「Technology(テクノロジー)」の頭文字からとった。

 DO−ITは、十数年前から米国でワシントン大を中心に実施されている。日本では中邑教授をディレクターに東大、早稲田大、日本福祉大、香川大などの教授や准教授が任意団体「DO−IT Japan」を設立。昨年7月、マイクロソフト社と共催で東京で5日間のプログラムを実施し、今回が2回目。

 高校生たちの意欲は高い。アスペルガー症候群で会話が苦手で人とかかわることを避けてきたという都内の3年生男子は「プログラミングの勉強中。将来は自分と同じような人のためにコミュニケーションを助けるプログラムを作りたい」。視覚と足に障害がある愛知県の2年生女子は「仲間や友人をつくりたい。同じ悩みを抱える人たちのカウンセラーになるのが希望」。

 講師の早口の説明を理解できなければICレコーダーで聞き返す、発話が困難ならキーボードを打つと音声を発する装置を使う。IT機器の活用がコミュニケーションを助けていた。

 日本の大学には彼らのような障害のある学生が約5000人いて、全学生に占める割合は0.17%(日本学生支援機構調べ)。米国は約200万人、11%。この違いは何か。中邑教授は「米国では障害のある学生が高等教育を受け、さまざまな分野のリーダーになっていかないと国は変わらないと考え、支援プログラムが行われてきた」と指摘する。

 今年6月、ネパールを訪れた中邑教授は目の見えない小学校教師の授業を参観した。子どもの席を覚えていて、字を教えると正しいかどうか隣同士で話し合わせるなどの方法で国語の授業をしていた。ネパールには視覚障害の教師が約300人いるという。「障害は社会でつくりだされる側面もある。障害がない人も一緒にバリアーを崩していってほしい」と中邑教授は話し、DO−ITがその突破口になることを期待する。

●記者のつぶやき
 DO−ITは米国発。国力低下が指摘されるが、障害者への支援一つみても底力を感じる。10年以上遅れて始まった日本のプログラムだが、関係者の熱意が伝わる。いくつかの企業も製品やサービスを提供しており、継続、拡大に期待したい。

(2008年8月5日 中日新聞夕刊8面より)
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