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中日新聞掲載の大学記事

2012.05.23

フラーレン生成を解明 20年の論争決着 篠原名大教授ら 大量合成に道

 化学分野で20年以上にわたって謎とされてきた球状の炭素分子「フラーレン」が生成される仕組みを、名古屋大大学院理学研究科の篠原久典教授や英国人のノーベル賞学者ハロルド・クロトー博士らのグループが解明した。英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」の電子版に22日、発表した。小さなフラーレンが大きくなっていくという生成の仕組みが解明されたことで、さらに大量合成法の発見につながり、応用が飛躍的に伸びる可能性がある。

 フラーレンはクロトー博士らが1985年に発見。太陽電池や半導体、医薬品など広い分野での応用が期待される素材だ。クロトー博士は発見の功績でノーベル化学賞を受賞した。

 だが、ナノメートル(ナノは10億分の1)と極小で計測が困難なため、どのように生成が進むのか分からず、研究者の間で長年の課題だった。

 今回、グループは6年ほどかけて質量分析やレーザー機器などの実験機器を開発。大量のフラーレンを準備し、レーザーを当てて一部のフラーレンを破壊した。

 すると、残ったフラーレンのサイズが大きくなっていた。グループはレーザーで壊された破片が残ったフラーレンに結び付いて大きくなると結論づけた。

 フラーレンは小さなサイズから大きくなるのか、大きなものが分かれるのかなど、生成過程で論争が続いてきた。グループは今回の実験の結果、小さなフラーレンが大きくなるという生成の過程が明らかになったとしている。

 篠原教授は複数の金属原子を取り込んだ「金属内包フラーレン」の合成に世界で初めて成功。2011年には中日文化賞を受賞した。篠原教授は「長年の論争に決着をつけられてうれしい」と話している。

■広く応用の新素材 フラーレン
 炭素原子がいくつも結びついてサッカーボールのような形になった分子。60個の原子でできているC60が最も有名。C60の直径は1ナノメートル(10億分の1メートル)。原子の数が増えれば、サイズが大きくなる。ダイヤモンド並みに硬く、金属を内包させると高い導電性を示す。広い分野で応用が期待される次世代素材で、エイズの特効薬になる可能性も指摘されている。最近は美肌効果があるとして化粧品にも利用されている。構造が似た筒状の炭素分子「カーボンナノチューブ」は地上と宇宙基地を結ぶ宇宙エレベーターの素材などとして注目される。

(2012年5月23日 中日新聞朝刊1面より)

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