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中日新聞掲載の大学記事

2012.05.23

老舗街 再建の製図 豊橋の准教授 気仙沼を支援

■文化財 昭和初期の材料、工法で

 東日本大震災の津波で被災した宮城県気仙沼市の文化財を再建しようと、宮城県出身の豊橋技術科学大(愛知県豊橋市)の泉田英雄工学部准教授(57)=建築史=が支援をしている。大正末期から昭和初期にできたモダンな建物が点在し、泉田さんも幼いころから親しんだ大好きな街。「復興のシンボルにしたい」と、製図など再建作業に力を注ぐ。(豊橋総局・池内琢)

 気仙沼市は遠洋漁業の拠点として繁栄し、明治から西洋文化を取り入れてきた。旧市街の魚町、南町地区は木造2〜3階建ての欧州の柱廊を思わせる装飾のある建物や、土蔵に洋風の円い窓のある老舗酒造や米穀店などが軒を連ねる。ところが、国登録有形文化財の酒造会社「男山(おとこやま)本店」「角星(かくぼし)店舗」など5つの建物は、津波で1階部分を流されたり、土蔵が崩れたりした。

 泉田さんは南へ60キロの美里町生まれ。故郷の思い出まで流されたような気持ちになり昨年5月、気仙沼市に1人、足を運んだ。

 5つの文化財は柱が所々で折れ、土蔵の土壁には3メートルにわたってひびが入っていた。壁からはがれたしっくいが床に散乱している場所も。被害の大きさにがくぜんとした。気を取り直して調べたところ、押しつぶされた1階部分を重機でつり上げ、柱を強度のある鉄骨に換えたり、崩れたしっくいを塗り直せば、文化財はいずれも再建できることが分かった。

 「遠く離れた豊橋で働いていても、気仙沼の力になりたい」。2007年の能登半島地震で、倒壊した土蔵を復元した経験もある。気仙沼市教育委員会に「私の技術と経験を文化財の修復に役立てたい」との手紙を送った。快諾を得て、本格的な調査を開始。これまでに8回、研究室の学生3人と現地を訪れ、被災した建物を計測。修復するための製図作業に打ち込んだ。

 課題は多額な修復費。作業では、つぶれた1階部分を鉄筋コンクリート製の柱で補強したり、昭和初期と同じ材料と工法で外観を復元。壊れた土蔵の場合、土壁やしっくいを左官業者らと手作業で塗り直すことが必要で、数千万円かかる建物もある。

 泉田さんらの呼び掛けで、カンボジアのアンコールワットにある寺院など歴史的建造物の保存活動を続ける文化財保護団体「ワールドモニュメント財団」(米ニューヨーク)が資金援助を申し出た。順調にいけば、工事は8月にも始まる。

 泉田さんは「復興の象徴として老舗店舗を再建し、住民の精神的な支柱にしたい」。担当する気仙沼市教委の幡野寛治主幹(42)は「気仙沼の古い街並みは83年前の大火の後に復興した街で、災害から立ち上がる気仙沼の人々の心そのもの。支援は本当にありがたい」と話している。

(2012年5月23日 中日新聞夕刊11面より)

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