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学生活動  2018.03.19

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80歳版画家 大学卒業 6年がかり 闘病越え喜びの春

版画クラブの仲間に卒業証書を披露し、祝福を受ける西松さん=岡崎市の愛知産業大で

版画クラブの仲間に卒業証書を披露し、祝福を受ける西松さん=岡崎市の愛知産業大で

 愛知産業大(岡崎市)通信教育部造形学部で学ぶ岐阜県可児市の西松サチ子さん(80)が卒業の日を迎えた。夫との死別から進学を決め、大病も乗り越えて6年かけてたどり着いた喜びの春。卒業証書を手に「友のおかげ」と感謝を語った。 (神谷慶)

 17日の卒業式。スーツや振り袖を着た孫くらいの年齢の学生の中に、背筋を真っすぐ伸ばして座る着物姿の西松さんがいた。主に社会人が通う通信教育部によると、本年度に大学、大学院、短大を卒業する496人の中ではもちろん、1992年の開学以来最高齢の卒業生だ。

 渥美町(現田原市)の農家で7人きょうだいの三女として生まれ、愛知の県立高校の1年課程を卒業後に名古屋市で就職して結婚、2女を育てた。40歳ごろに兵庫県内の短大に入り、保育士の資格を取って60歳まで保育園で働いた。

 愛産大への入学は、50年連れ添った夫との突然の別れがきっかけになった。2011年1月、心筋梗塞で急逝。翌年「勉強に熱中すれば悲しみが紛れるかも」と、愛産大のデザイン学科に3年次から編入学した。

 芸術理論や美術史、デザイン、デッサンなどを幅広く学んだ。車の免許はなく、大学まで電車で片道2時間。通信制はリポートと筆記テストが基本だが、集中的に講義や実習を受ける年4回のスクーリングでは、本が詰まった重さ5キロのリュックを背負い、泊まり込みで臨んだ。パソコンは苦手で、リポートはボールペンで書いた。

 実は、国際的な版画家でもある。20年前に名古屋市の中日文化センターで現代美術家・山田彊一さんに教わるようになり才能が開花。01年の米中枢同時テロを題材にした作品は台湾のコンクールで入選し、現地の国立美術館に収蔵された。

 昨年6月、大腸がんで大腸と小腸を半分切除した。リポートや課題制作が滞り、一時は卒業を諦めた。しかし、大学の版画同好会の仲間の「もったいない」という励ましにも後押しされ、連日深夜まで頑張り乗り切った。

 「おめでとう」「最後まで頑張ったね」。17日の式典後、同好会のメンバーからハグや拍手で祝福を受けた。

 「さっちゃん」はさらなる向学心を燃やす。「少しのことでくっついたり離れたりする人の心の動きに興味がある。次は心理学を勉強したい」。4月からは、授業のみ受講する短大の科目履修生として、新たな学生生活に挑む。

(2018年3月19日 中日新聞朝刊県内版より)

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