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2009.12.15
大学に広がる漫画学 明大に図書館、名大も研究拠点
■『文学に負けない存在』
明治大が2014年度の開館に向け、漫画やアニメ、フィギュア、ゲームなど計約200万点を保存展示する「東京国際マンガ図書館」(仮称)構想を進めている。マンガ学科を設けたり、研究したりする大学は全国で増えており、東海地方でも昨年から名古屋大や名古屋造形大が、新たに名乗りを上げている。なぜ、大学で漫画なのだろうか。 (嶋津栄之)
マンガ図書館は、東京の明大駿河台キャンパス内に設置。日本の漫画・アニメの資料を体系的に保存し、海外からも多く寄せられる学術的関心に応える拠点にする計画だ。3年前に京都市に開館した「京都国際マンガミュージアム」(蔵書約30万冊)を上回る、漫画の施設では世界最大級という。
この10月末には先行施設として、漫画専門の「米沢嘉博記念図書館」が開館。昨年4月には漫画史やアニメ文化論などを教科に取り入れた国際日本学部も新設している。
マンガ図書館が収蔵する漫画は、明大OBの漫画評論家・故米沢嘉博さんが収集し、遺族が寄贈した約14万冊が核の1つ。レディースコミックや同人誌などの貴重な資料も多い。漫画やアニメの保存施設を構想していた同学部の森川嘉一郎准教授が、生前の米沢さんに相談、後に明大に計画を持ち込んだことがきっかけとなった。記念図書館は駿河台キャンパスの隣接地(東京都千代田区猿楽町)のビルにあり、米沢さんの蔵書の一部を、会員制により一般も閲覧できる。
■戦後を映す鏡 海外の注目度
国際日本学部は、日本の文化や社会、国際関係などを幅広く学ぶのが目的。漫画やアニメは日本文化コースの中で、伝統芸能や哲学などと並ぶ科目群として取り入れられた。森川准教授は「漫画は昭和の時代から日本の出版物の大きな割合を占めており、戦後の国民の価値観やライフスタイルを映し出す鏡となってきた。漫画自体の研究のみならず、歴史学や社会学の資料としても重要」と話す。加えて「日本人が思う以上に海外では漫画を通じて日本を理解し、興味を持つ人が多い。だが、今まで日本にそれらを学ぶ大学や、資料がそろう場所は少なかった。学内にとどまらず、広く利用してもらう施設に」と意義を強調する。
漫画やアニメの学科、コースを設置する大学が増えたのは1990年代以降。学生獲得のため、学部再編の目玉とするケースも多く、現在は私立の芸術系を中心に20以上を数える。一般教養の科目に「マンガ文化論」などを取り入れている大学もある。東海地方では大垣女子短大(岐阜県大垣市)が1995年にマンガコースを設け、20人以上の漫画家を輩出している。名古屋造形大(愛知県小牧市)も昨年4月にマンガクラスを新設し、今年4月に独立したマンガコースとした。
また、名古屋大大学院(名古屋市千種区)にも昨年10月、漫画やアニメも対象とする「日本近現代文化研究センター」が開設された。漫画やアニメ、映画を視覚文化の1つとして研究し、年内には1年の成果をまとめた雑誌を出版する。
ことし1月に学内で開かれたシンポジウムでは、手塚治虫の漫画を題材にした研究発表があり、8月には名古屋・大須での「世界コスプレサミット2009」に協力、国際シンポの会場にキャンパスを提供した。シンポに出席した同センター長の坪井秀人教授は「漫画やアニメを学問とすることに異論もあるが、現代社会を研究する上で必要なこと。もちろん活字文化の研究も重要で、幅広い分野に関心を持つことが大事だ」と話す。
大垣女子短大など、各地の大学で10年以上も講師を務める漫画家の長谷邦夫さん(72)は「当初はどの大学も戸惑いや多少の抵抗はあったが、今では定着した。日本のストーリー漫画も60年超の歴史があり、文学に負けない存在になった」と振り返る。その一方で「漫画学科があるだけで学生が集まる時代は終わり、今は大物の漫画家や編集者を招くなど、大学間の競争も激しい。今後はより質の高い指導、研究が進むだろう」と話している。
(写真)名古屋大学内で開かれた国際シンポに出席した各国のコスプレーヤーたち=名古屋市千種区で(世界コスプレサミット実行委員会提供)
(2009年12月15日 中日新聞朝刊17面より)
明治大が2014年度の開館に向け、漫画やアニメ、フィギュア、ゲームなど計約200万点を保存展示する「東京国際マンガ図書館」(仮称)構想を進めている。マンガ学科を設けたり、研究したりする大学は全国で増えており、東海地方でも昨年から名古屋大や名古屋造形大が、新たに名乗りを上げている。なぜ、大学で漫画なのだろうか。 (嶋津栄之)
マンガ図書館は、東京の明大駿河台キャンパス内に設置。日本の漫画・アニメの資料を体系的に保存し、海外からも多く寄せられる学術的関心に応える拠点にする計画だ。3年前に京都市に開館した「京都国際マンガミュージアム」(蔵書約30万冊)を上回る、漫画の施設では世界最大級という。
この10月末には先行施設として、漫画専門の「米沢嘉博記念図書館」が開館。昨年4月には漫画史やアニメ文化論などを教科に取り入れた国際日本学部も新設している。
マンガ図書館が収蔵する漫画は、明大OBの漫画評論家・故米沢嘉博さんが収集し、遺族が寄贈した約14万冊が核の1つ。レディースコミックや同人誌などの貴重な資料も多い。漫画やアニメの保存施設を構想していた同学部の森川嘉一郎准教授が、生前の米沢さんに相談、後に明大に計画を持ち込んだことがきっかけとなった。記念図書館は駿河台キャンパスの隣接地(東京都千代田区猿楽町)のビルにあり、米沢さんの蔵書の一部を、会員制により一般も閲覧できる。
■戦後を映す鏡 海外の注目度
国際日本学部は、日本の文化や社会、国際関係などを幅広く学ぶのが目的。漫画やアニメは日本文化コースの中で、伝統芸能や哲学などと並ぶ科目群として取り入れられた。森川准教授は「漫画は昭和の時代から日本の出版物の大きな割合を占めており、戦後の国民の価値観やライフスタイルを映し出す鏡となってきた。漫画自体の研究のみならず、歴史学や社会学の資料としても重要」と話す。加えて「日本人が思う以上に海外では漫画を通じて日本を理解し、興味を持つ人が多い。だが、今まで日本にそれらを学ぶ大学や、資料がそろう場所は少なかった。学内にとどまらず、広く利用してもらう施設に」と意義を強調する。
漫画やアニメの学科、コースを設置する大学が増えたのは1990年代以降。学生獲得のため、学部再編の目玉とするケースも多く、現在は私立の芸術系を中心に20以上を数える。一般教養の科目に「マンガ文化論」などを取り入れている大学もある。東海地方では大垣女子短大(岐阜県大垣市)が1995年にマンガコースを設け、20人以上の漫画家を輩出している。名古屋造形大(愛知県小牧市)も昨年4月にマンガクラスを新設し、今年4月に独立したマンガコースとした。
また、名古屋大大学院(名古屋市千種区)にも昨年10月、漫画やアニメも対象とする「日本近現代文化研究センター」が開設された。漫画やアニメ、映画を視覚文化の1つとして研究し、年内には1年の成果をまとめた雑誌を出版する。
ことし1月に学内で開かれたシンポジウムでは、手塚治虫の漫画を題材にした研究発表があり、8月には名古屋・大須での「世界コスプレサミット2009」に協力、国際シンポの会場にキャンパスを提供した。シンポに出席した同センター長の坪井秀人教授は「漫画やアニメを学問とすることに異論もあるが、現代社会を研究する上で必要なこと。もちろん活字文化の研究も重要で、幅広い分野に関心を持つことが大事だ」と話す。
大垣女子短大など、各地の大学で10年以上も講師を務める漫画家の長谷邦夫さん(72)は「当初はどの大学も戸惑いや多少の抵抗はあったが、今では定着した。日本のストーリー漫画も60年超の歴史があり、文学に負けない存在になった」と振り返る。その一方で「漫画学科があるだけで学生が集まる時代は終わり、今は大物の漫画家や編集者を招くなど、大学間の競争も激しい。今後はより質の高い指導、研究が進むだろう」と話している。
(写真)名古屋大学内で開かれた国際シンポに出席した各国のコスプレーヤーたち=名古屋市千種区で(世界コスプレサミット実行委員会提供)
(2009年12月15日 中日新聞朝刊17面より)