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2017.09.21

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AI 糖尿病合併症を予測 藤田保健大など開発 生活習慣病で初

■患者データ解析 半年後の発症判断

 人間では処理しきれない膨大なデータを人工知能(AI)を使って分析し、糖尿病の合併症の1つ「腎症」の発症などを予測するシステムを、藤田保健衛生大(愛知県豊明市)と日本IBM、第一生命保険が共同開発した。医療分野でもAIの活用は進んでいるが、同大によると、日本人の生活習慣病に関する予測システムは初めてという。糖尿病の治療や診断はもちろん、今後の「AI医療」の進展にも期待が高まる。

 糖尿病は国内で300万人の患者がいる代表的な生活習慣病で、悪化すると腎臓の機能が低下する腎症や、網膜症、脳梗塞といった重い合併症を引き起こすリスクがある。

 共同研究では、藤田保健衛生大病院が、糖尿病患者6万4000人と、それ以外の患者6万8000人の電子カルテのデータを匿名化して提供。合併症のうち「糖尿病性腎症」に着目し、日本IBMのAIシステム「Watson」(ワトソン)が、人間の脳の神経回路をモデルにしたディープラーニング(深層学習)によって解析した。

 腎機能を示す検査データ「eGFR」値や血糖値はもちろん、因果関係が薄いとされがちな検査データも含め24項目の数値を分析。時間経過による変化や既往症の有無も踏まえた。その結果、現時点では腎症の予兆がない初期の糖尿病患者でも、近い将来の見通しとして180日後に発症するかどうか、高い精度で予測することができるようになったという。

 「ワトソン」は数値化されたデータだけでなく、電子カルテに記載された医療スタッフと患者とのやりとりなども解読できる。スタッフが患者の治療への取り組みを「褒めた」場合、患者の血糖値の改善傾向が強まることも分かり、心理面での治療支援にも活用できる可能性が出てきた。

 開発に関わった藤田保健衛生大の鈴木敦詞(あつし)教授は「診断はあくまで医師が行うものだが、AIの判断を参考にすることで診断技術の向上や指導方法の改善につなげたい」と話していた。

■医療分野でも不可欠に

 藤田保健衛生大などが開発した糖尿病の合併症などの予測システムは、囲碁の名人を打ち負かしたり車を自動運転したりと進化が著しいAIが、医療分野でも不可欠となりつつあることをあらためて示した。

 AIの活用では東京大が2015年、日本IBMと連携してがん治療の研究を開始。がんに関連する2000万件の論文や患者の遺伝子情報をAIシステムに学習させ、診療に役立てようとしている。昨年には血液のがん「急性骨髄性白血病」の女性患者について、AIが治療法を助言し回復に貢献するという成果を上げた。

 国立がん研究センターも、がん治療のAI活用を進める。血液中に含まれる微小物質をAIを使って分析することで、ごく初期のがんを高い精度で発見できる可能性がある。このほか認知症や心疾患の診断にAIを生かそうという研究も国内外で始まっている。

 国民病とも言われる糖尿病での今回の活用は、AI開発で先頭を走るIBMと、病院の病床数が国内最大級で、豊富な患者データを持つ藤田保健衛生大との協力で実現した。同大は将来のAI活用をにらみ、5年前からカルテなどの電子処理にIBMのシステムを導入していた。同様のシステムは他の病気でも開発が可能で、同大の星長清隆学長は「AIは医療の新しい可能性を開く。患者によりよい医療を提供していきたい」と話した。(坪井千隼)

 ▼ディープラーニング AIの技術の1つ。AI自身が学習し、大量のデータから特徴を見いだす。AIの判断力が飛躍的に高まったといわれる。昨年、この技術を応用した囲碁ソフト「アルファ碁」が世界トップ級の棋士を破り、話題になった。医療や自動運転などさまざまな分野で応用が期待されている。

(2017年9月21日 中日新聞朝刊1面より)

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