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中日新聞掲載の大学記事

2014.01.27

名古屋人 嗅覚衰えた? 北海道八雲町と比較 都市生活影響か

 新旧ナゴヤ人、味やにおいの感じ方に違いあり−。明治時代に旧尾張藩士らが開拓した北海道八雲町と、今の名古屋市。それぞれの中高年住民の味覚や嗅覚がどうなっているかを、名古屋女子大家政学部の片山直美教授(医学博士、栄養学)らのチームが調査している。都市と農漁村という生活基盤の違いもあり、環境や生活習慣が人間の感覚に及ぼす影響を追う。これまでの調査では、八雲町は味覚、名古屋市は嗅覚に「異常の疑い」が多いとの特徴がくっきりと表れた。(相坂穣)

 名古屋ゆかりの八雲町では、片山教授が非常勤講師を兼務する名古屋大医学部が1980年代から、この縁をきっかけに40歳以上の住民対象の健康診断を毎年実施。片山教授は両地域の比較を念頭に調査を企画、2010年度から本格的に取り組み始めた。酪農や漁業など1次産業が盛んで住民の転入や転出が少ないため、長期間の継続調査に適しているという。

 13年度は、40〜90歳代の町民380人を調べた。味覚調査は、6種類の味を区別する6点満点のテスト。うち3問を間違えて「異常の疑いがある」とされる3点以下の人が全体の56%に上った。嗅覚は果物やヒノキの香り、カビや腐敗臭などさまざまなにおいをかぎ分ける12点満点のテストで、6点以下の「異常の疑いがある」と判定された人は29%だった。

 名古屋の調査は、名古屋女子大のある瑞穂区の住民が対象。明治時代の名古屋人の子孫が多く暮らす八雲町民と現代の名古屋市民を比べようとの試みで、12年度から始めた。中高年250人を調べた結果、味覚異常が疑われる割合は23%と低いものの、嗅覚異常が疑われる割合は47%で八雲町民の1.6倍も多いという、対照的な結果が出た。

 片山教授は、八雲町民の味覚異常の多さの背景に「チーズ、バター、ハム、ソーセージ、干物など地域に塩分を多く含んだ食品が多い」ことを挙げ「塩分の多い食生活は、微妙な味覚を衰えさせる可能性がある」と分析する。

 名古屋市民の嗅覚については、大気汚染の影響を挙げたほか「デパートの地下やコンビニで購入した弁当の消費が多いためでは」と指摘。「季節感のずれた食材や冷めたおかずを温めずに食べるため、香りを感じる力が落ちている」と推測する。

 今後も両地区で検査を続け、外食の頻度や労働時間、運動量などを尋ねたアンケートを分析。生活習慣の乱れと味覚、嗅覚の異常との因果関係をさらに詳しく調べる。

■現代人の健康のカギ 共同研究者の藤田保健衛生大・中田誠一准教授(耳鼻咽喉科)の話

 味覚や嗅覚は、視覚や聴覚ほど重視されない傾向があり、社会生活に大きな影響はないと見過ごされがちだ。しかし嗅覚、味覚の衰えはアルツハイマー型認知症の初期症状の一つとして知られ、認知症治療で最も大切な早期発見のシグナルになる。味付けの濃いコンビニ弁当やファストフードを食べる機会が増えた現代の人々が抱える健康不安を、科学的データで明らかにする調査としても意義がある。

▼八雲町 北海道南部の函館市と室蘭市の中間に位置する。1878(明治11)年に旧尾張藩主の徳川慶勝が名古屋の住民72人を移住させ、開拓を開始。2005年に旧熊石町と合併し、日本で唯一、太平洋と日本海に面する町になった。人口は1万8184人(13年11月現在)。面積は956平方キロメートルで名古屋市(326平方キロメートル)のほぼ3倍。北海道特産バターあめの発祥地とされるなど酪農が盛ん。サケやスケトウダラ漁、ホタテ養殖など漁業も基幹産業となっている。

(2014年1月27日 中日新聞朝刊31面より)
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