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お知らせ 2019.12.22
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自治区博物館長が発掘協力に感謝 クルド人と日本 新たな歴史編む メソポタミア保護の力に
イラク中央政府との対立が続く同国北東部のクルド人自治区で、メソポタミア文明の遺跡発掘に中部大(愛知県春日井市)の西山伸一准教授のチームなどが取り組んでいる。同自治区のスレイマニヤ博物館館長で、調査隊とともに現地の文化遺産保護に奔走するハーシム・ハマー・アブドゥッラー氏(51)は中日新聞の取材に「協力は非常にありがたい。クルド人の新たな歴史を編む機会を得た」と意義を語る。(西田直晃)
クルド自治政府は、イラク戦争の復興のめどが付いた2010年ごろから外国隊の発掘を許可。これまでに欧米のほか、中部大や筑波大、東京大のチームなど約50隊が訪れた。西山准教授らは16年夏、スレイマニヤ県の都市遺跡に入り、未盗掘の墓やくさび形文字が記された青銅製の首飾りなどを発見。成果を博物館と共有し、展示品の充実に寄与している。
西山准教授は「世界最古の文明が誕生した考古学的に重要な土地。文化遺産の保護は地元住民への貢献にもなる」と強調。12月中旬にハーシム氏を中部大に招き、発見の報告を含め現地の状況を伝えた。
ハーシム氏によると、同博物館はイラクで2番目の規模だが、展示品はすべて首都バグダッドから分配されていた。だが、外国隊との協力で資金不足をカバーし、地元の出土品を展示できるようになった。「これまでにはメソポタミア文明を語るとき、クルド人の存在に触れられることはほとんどなかった。だが、数千年前から私たちの祖先が築いた歴史を出土品によって復元したい」と期待する。
ただ、政情不安が悩みの種だ。14年以降、中央政府と自治政府との間で油田の権益争いが本格化。17年に分離独立を問う住民投票が実施されると、両者の亀裂はさらに深まった。ハーシム氏は「中央政府の自治政府に対する予算の凍結で、日々の業務に大きな支障を招いた」と嘆く。
その苦境を支えているのが、日本からの調査隊という。「発掘に必要な道具や資材を要望すれば、可能な限り持参してくれる。関係は非常に良好だ」。クルド人の歴史を共に紡ぐ仲間として、中部大などに寄せる期待は大きい。
■中部大、出土品や備品提供
中部大の西山准教授は西アジア史が専門。かつては隣国のシリアを中心に発掘を続けていたが、内戦勃発により断念し、治安が比較的落ち着いたクルド人自治区に拠点を移した。
2017年夏には、スレイマニヤ県の都市遺跡で、広大な版図を誇った「新アッシリア帝国」の未盗掘の墓を発見。中東地域では、過激派組織「イスラム国」(IS)の略奪や破壊が頻発したこともあり、約2700年前の墓が無傷で見つかるのは珍しい。指輪などの副葬品や陶製のひつぎといった出土品を、スレイマニヤ博物館に提供してきた。
発掘と並行し、文化活動の支援にも携わる。博物館にはショーケースを寄贈。文化庁の協力を取り付け、若手研究者らを日本に招く人材交流も進め、最新の発掘技術を伝えている。
クルド人自治区ではイラクからの独立志向が高まるにつれ、住民の中に歴史を見直す意識が醸成されているという。「出土品の展示に関するノウハウなど伝える技術は多い。政治情勢に左右され、自らの歴史を持てなかった人々の手助けを続けたい」と西山准教授。来年2月には博物館の改修作業に加わり、夏に都市遺跡での発掘を再開する。
■クルド人自治区
イラク北東部に該当するが、油田都市キルクークなど中央政府との間で帰属権があいまいな地域もある。湾岸戦争後の1992年に旧フセイン政権と自治権の獲得で合意し、イラク戦争で同政権が崩壊した2006年に外交を除く権限を持つ自治政府を樹立。クルド人のルーツには諸説ある。
(2019年12月22日 中日新聞朝刊27面より)
クルド自治政府は、イラク戦争の復興のめどが付いた2010年ごろから外国隊の発掘を許可。これまでに欧米のほか、中部大や筑波大、東京大のチームなど約50隊が訪れた。西山准教授らは16年夏、スレイマニヤ県の都市遺跡に入り、未盗掘の墓やくさび形文字が記された青銅製の首飾りなどを発見。成果を博物館と共有し、展示品の充実に寄与している。
西山准教授は「世界最古の文明が誕生した考古学的に重要な土地。文化遺産の保護は地元住民への貢献にもなる」と強調。12月中旬にハーシム氏を中部大に招き、発見の報告を含め現地の状況を伝えた。
ハーシム氏によると、同博物館はイラクで2番目の規模だが、展示品はすべて首都バグダッドから分配されていた。だが、外国隊との協力で資金不足をカバーし、地元の出土品を展示できるようになった。「これまでにはメソポタミア文明を語るとき、クルド人の存在に触れられることはほとんどなかった。だが、数千年前から私たちの祖先が築いた歴史を出土品によって復元したい」と期待する。
ただ、政情不安が悩みの種だ。14年以降、中央政府と自治政府との間で油田の権益争いが本格化。17年に分離独立を問う住民投票が実施されると、両者の亀裂はさらに深まった。ハーシム氏は「中央政府の自治政府に対する予算の凍結で、日々の業務に大きな支障を招いた」と嘆く。
その苦境を支えているのが、日本からの調査隊という。「発掘に必要な道具や資材を要望すれば、可能な限り持参してくれる。関係は非常に良好だ」。クルド人の歴史を共に紡ぐ仲間として、中部大などに寄せる期待は大きい。
■中部大、出土品や備品提供
中部大の西山准教授は西アジア史が専門。かつては隣国のシリアを中心に発掘を続けていたが、内戦勃発により断念し、治安が比較的落ち着いたクルド人自治区に拠点を移した。
2017年夏には、スレイマニヤ県の都市遺跡で、広大な版図を誇った「新アッシリア帝国」の未盗掘の墓を発見。中東地域では、過激派組織「イスラム国」(IS)の略奪や破壊が頻発したこともあり、約2700年前の墓が無傷で見つかるのは珍しい。指輪などの副葬品や陶製のひつぎといった出土品を、スレイマニヤ博物館に提供してきた。
発掘と並行し、文化活動の支援にも携わる。博物館にはショーケースを寄贈。文化庁の協力を取り付け、若手研究者らを日本に招く人材交流も進め、最新の発掘技術を伝えている。
クルド人自治区ではイラクからの独立志向が高まるにつれ、住民の中に歴史を見直す意識が醸成されているという。「出土品の展示に関するノウハウなど伝える技術は多い。政治情勢に左右され、自らの歴史を持てなかった人々の手助けを続けたい」と西山准教授。来年2月には博物館の改修作業に加わり、夏に都市遺跡での発掘を再開する。
■クルド人自治区
イラク北東部に該当するが、油田都市キルクークなど中央政府との間で帰属権があいまいな地域もある。湾岸戦争後の1992年に旧フセイン政権と自治権の獲得で合意し、イラク戦争で同政権が崩壊した2006年に外交を除く権限を持つ自治政府を樹立。クルド人のルーツには諸説ある。
(2019年12月22日 中日新聞朝刊27面より)