HOME > 中日新聞掲載の大学記事 > お知らせ
お知らせ 2019.12.10
この記事の関連大学
吉野氏 ノーベル賞記念講演 リチウムイオン電池 環境革命導く
【ストックホルム=安藤孝憲】ノーベル化学賞を受賞する名城大教授で旭化成名誉フェローの吉野彰さん(71)は8日午後(日本時間同日夜)、ストックホルム大の講堂でノーベル・レクチャーと呼ばれる記念講演に臨んだ。環境問題に力点を置き「持続可能な社会の実現は近い。リチウムイオン電池が中心的な役割を果たす」と訴えた。
「リチウムイオン電池の開発経緯とこれから」と題し、英語で30分間講演した。大阪で生まれたことなど自身の生い立ちから語り始め、ファラデーの著書「ロウソクの科学」を読んで化学に関心を持ったことにも触れた。
自身の研究開発が、同じノーベル化学賞を受けた故・福井謙一京都大教授や白川英樹筑波大名誉教授(83)の影響を強く受けたと述べ「多くのノーベル賞受賞者の系譜を受け継いでいる。リチウムイオン電池は幸せ者だ」と話した。
近年、リチウムイオン電池の販売実績で、電気自動車(EV)向けがスマートフォンなどのモバイル端末向けを上回る現状に触れ「かつてIT(情報技術)革命をもたらしたように、ET(環境、エネルギー技術)革命を導くだろう」と力説。
人工知能(AI)で管理された無人自動運転のEVを、必要な時に必要なだけ利用できる交通体系や、太陽光や風力で発電する「電気ステーション」とEVが、相互に電気を供給し合う未来像を映像で紹介して締めくくり、会場からスタンディングオベーションを受けた。
講演終了後、宿泊先のホテル内で記者会見に応じ「自己採点は77、8点。特に欧米で私のメッセージがどう受け止められるか関心がある」と述べた。
共同受賞者のジョン・グッドイナフさん(97)、マイケル・スタンリー・ウィッティンガムさん(77)も環境問題に言及したことについて「私も含め、リチウムイオン電池が問題解決への責任を負わされたと感じたのだと思う」と振り返った。
今年を表す漢字一文字を問われると「賞」の字を選んだ。吉野さんはノーベル化学賞の決定に先立ち、6月に欧州特許庁の「欧州発明家賞」を受賞している。授賞式は10日夕(日本時間11日未明)にある。
■講演要旨
ノーベル化学賞の受賞はとても光栄だ。特に企業研究者としての受賞に日本中が興奮した。何年も支えてくれた家族への大きな贈り物にもなった。
1948年、大阪府吹田市で生まれた。外で遊ぶのが好きだった。9歳のときにファラデーの著書「ロウソクの科学」を読み、化学に魅了された。
人生で最も良かった4つの決断は、京都大で化学を学んだこと、旭化成に入社したこと、妻の久美子と結婚したこと、そしてリチウムイオン電池の研究を始めたことだ。
リチウムイオン電池の負極には、ノーベル賞を受賞した福井謙一氏や白川英樹氏らの研究も関わっている。福井氏は私の師の、さらに師に当たる。
負極の開発は、白川氏が見つけた「ポリアセチレン」から始まった。金属のような光沢を持つプラスチックだ。だが(対となる)正極として使える材料がなくて困った。
共同受賞者のジョン・グッドイナフ氏が、コバルト酸リチウムという材料を見つけた。これこそが正極にほしいものだった。
私は、この2つの電極を使い現在のリチウムイオン電池の原型を作った。さらに旭化成の別グループが開発した炭素材料を負極に使って改良した。
86年の実験で発火も爆発もせず、安全だと分かった。このとき私の電池が誕生した。
今年のノーベル賞に選ばれたのには2つ理由がある。モバイルIT社会を実現したこと。もう1つは、持続可能な社会を支える技術となることだ。
リチウムイオン電池市場は95年から急激に成長し、IT革命が始まった。次の革命はエネルギーと環境問題で起こるだろう。環境問題の解決と経済成長、便利な生活の3つをどうやって同時に実現させるか。私は出口があると信じている。
私が描く未来社会の姿をビデオで紹介する。2030年、人工知能によって自動運転になった電気自動車「AIEV」が普及し、呼び出すと近くにいる車が自分のところに来てくれる。互いに通信しており、事故や渋滞はない。車は毎月の定額制で共有すれば、個人の費用負担は7分の1になる。
街には電気ステーションがあり、太陽光や風力で作った電気を車に供給する。電気供給が不安定になれば車がステーションで放電し、電気を供給する。車は電気を運ぶ役割も担っており、蓄電インフラになる。快適な暮らしを我慢したり、節約したりせずに生活できる時代が来る。
このような社会の実現には電池の耐久性の向上が必要だ。そうすれば電池は未来を変えられる。
変化は自動車だけではなく、社会のさまざまな場所で起こる。技術革新により、持続可能な社会は近い将来、実現できる。リチウムイオン電池がその中心的な役割を果たすだろう。(共同)
(2019年12月10日 中日新聞朝刊31面より)
「リチウムイオン電池の開発経緯とこれから」と題し、英語で30分間講演した。大阪で生まれたことなど自身の生い立ちから語り始め、ファラデーの著書「ロウソクの科学」を読んで化学に関心を持ったことにも触れた。
自身の研究開発が、同じノーベル化学賞を受けた故・福井謙一京都大教授や白川英樹筑波大名誉教授(83)の影響を強く受けたと述べ「多くのノーベル賞受賞者の系譜を受け継いでいる。リチウムイオン電池は幸せ者だ」と話した。
近年、リチウムイオン電池の販売実績で、電気自動車(EV)向けがスマートフォンなどのモバイル端末向けを上回る現状に触れ「かつてIT(情報技術)革命をもたらしたように、ET(環境、エネルギー技術)革命を導くだろう」と力説。
人工知能(AI)で管理された無人自動運転のEVを、必要な時に必要なだけ利用できる交通体系や、太陽光や風力で発電する「電気ステーション」とEVが、相互に電気を供給し合う未来像を映像で紹介して締めくくり、会場からスタンディングオベーションを受けた。
講演終了後、宿泊先のホテル内で記者会見に応じ「自己採点は77、8点。特に欧米で私のメッセージがどう受け止められるか関心がある」と述べた。
共同受賞者のジョン・グッドイナフさん(97)、マイケル・スタンリー・ウィッティンガムさん(77)も環境問題に言及したことについて「私も含め、リチウムイオン電池が問題解決への責任を負わされたと感じたのだと思う」と振り返った。
今年を表す漢字一文字を問われると「賞」の字を選んだ。吉野さんはノーベル化学賞の決定に先立ち、6月に欧州特許庁の「欧州発明家賞」を受賞している。授賞式は10日夕(日本時間11日未明)にある。
■講演要旨
ノーベル化学賞の受賞はとても光栄だ。特に企業研究者としての受賞に日本中が興奮した。何年も支えてくれた家族への大きな贈り物にもなった。
1948年、大阪府吹田市で生まれた。外で遊ぶのが好きだった。9歳のときにファラデーの著書「ロウソクの科学」を読み、化学に魅了された。
人生で最も良かった4つの決断は、京都大で化学を学んだこと、旭化成に入社したこと、妻の久美子と結婚したこと、そしてリチウムイオン電池の研究を始めたことだ。
リチウムイオン電池の負極には、ノーベル賞を受賞した福井謙一氏や白川英樹氏らの研究も関わっている。福井氏は私の師の、さらに師に当たる。
負極の開発は、白川氏が見つけた「ポリアセチレン」から始まった。金属のような光沢を持つプラスチックだ。だが(対となる)正極として使える材料がなくて困った。
共同受賞者のジョン・グッドイナフ氏が、コバルト酸リチウムという材料を見つけた。これこそが正極にほしいものだった。
私は、この2つの電極を使い現在のリチウムイオン電池の原型を作った。さらに旭化成の別グループが開発した炭素材料を負極に使って改良した。
86年の実験で発火も爆発もせず、安全だと分かった。このとき私の電池が誕生した。
今年のノーベル賞に選ばれたのには2つ理由がある。モバイルIT社会を実現したこと。もう1つは、持続可能な社会を支える技術となることだ。
リチウムイオン電池市場は95年から急激に成長し、IT革命が始まった。次の革命はエネルギーと環境問題で起こるだろう。環境問題の解決と経済成長、便利な生活の3つをどうやって同時に実現させるか。私は出口があると信じている。
私が描く未来社会の姿をビデオで紹介する。2030年、人工知能によって自動運転になった電気自動車「AIEV」が普及し、呼び出すと近くにいる車が自分のところに来てくれる。互いに通信しており、事故や渋滞はない。車は毎月の定額制で共有すれば、個人の費用負担は7分の1になる。
街には電気ステーションがあり、太陽光や風力で作った電気を車に供給する。電気供給が不安定になれば車がステーションで放電し、電気を供給する。車は電気を運ぶ役割も担っており、蓄電インフラになる。快適な暮らしを我慢したり、節約したりせずに生活できる時代が来る。
このような社会の実現には電池の耐久性の向上が必要だ。そうすれば電池は未来を変えられる。
変化は自動車だけではなく、社会のさまざまな場所で起こる。技術革新により、持続可能な社会は近い将来、実現できる。リチウムイオン電池がその中心的な役割を果たすだろう。(共同)
(2019年12月10日 中日新聞朝刊31面より)