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2017.09.01

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南山大「遠藤周作を読む会」東京へ ゆかりの地で人間探究

 南山大(名古屋市昭和区)の南山宗教文化研究所の金承哲(キムスンチョル)所長(58)が主宰する読書会「遠藤周作を読む会」が、9月から東京に“進出”する。会場は、信濃町(新宿区)の「真生会館」。『沈黙』などの作品で知られ、読書会のテーマである作家の故遠藤周作さん(1996年没)が青年期を過ごし、恩師と出会った学生寮をルーツとするキリスト教系の施設だ。ゆかりの場所での開催に、金所長は「遠藤作品を、自分を見つめる鏡にしてもらえたら」と願いを込める。(岡村淳司)

 遠藤さんは1943年に慶応大文学部の予科生になった際、現在は「真生会館」となっているキリスト教の学生寮「聖フヰリッポ寮」に入った。そこで舎監をしていた哲学者の吉満義彦(45年没)と出会い、薫陶を受けた。当時のことを、エッセー『吉満先生のこと』で振り返っている。

 あまり学業に熱心でなかった遠藤さんは、外国語の書籍に囲まれた部屋で毎晩遅くまで勉強する吉満に「学者とはこんなに勉強するものか」と驚いた。「君は哲学なんかより文学がむいている」と助言され、作家の堀辰雄や文芸評論家の亀井勝一郎を紹介された。

 当時は太平洋戦争の最中で、寮生は勤労奉仕作業に駆り出された。「天皇と神とどちらを尊敬しているのか」と侮蔑的に問われることもしばしばあった。そんな時、吉満は「憲兵や警察が、くだらんことを聞いたら、わかりませんと答えなさい」と指示した。「汝(なんじ)、殺すなかれ」と教えられながら寮生が出征してゆく矛盾の前に、吉満は戦争には口をつぐみ、神秘主義について熱心に教えるようになったという。

 遠藤さんの作品の底流には、日本人としてのアイデンティティーと、西洋から来たキリスト教信仰の葛藤があるとされる。吉満について「日本人と基督(キリスト)教ということを私に考えさせる切っ掛けをくださった」と記しており、大きな影響を受けたことがうかがえる。一方で「私がものを書きだした頃、先生は既に亡くなられていたので、自分の本を遂(つい)に読んで頂けなかった」とも残念がる。

 金所長は韓国・ソウル出身で、大学時代に『沈黙』のハングル版を読み、深い感銘を受けた。2001年に来日し、南山大でキリスト教神学を教えながら遠藤さんを研究。13年5月から、一般の人びとを対象に「遠藤周作を読む会」を開いている。今年はじめ、その作品を読み解く連載記事を「キリスト新聞」に寄稿したのを機に、読書会の企画が持ち上がった。

 吉満が亡くなった時、南山宗教文化研究所の初代所長ハインリヒ・デュモリンが追悼文を寄せた。6代目を務める金所長は、そのことにも不思議な縁を感じるという。「遠藤周作は自分の弱さを隠さずに書いた小説家。作品を読むことで、自分の中にある弱さに気付き、許したり許されたりする人間のあり方を学べる。ゆかりの地で読書会ができるのはうれしい半面、身震いするような思いがする」と話している。

 ※真生会館の「読む会」の初回は9月9日午後1時半から。新宿を舞台にした群像小説『悲しみの歌』を取り上げる。以後、隔月で開く予定。参加費1000円(学生は無料)。(問)真生会館=電03(3351)7121

(2017年9月1日 中日新聞夕刊9面より)

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