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中日新聞掲載の大学記事

2014.04.10

心の耳で一投集中 難聴の愛大投手 愛知大学野球 初登板へ

 5日に開幕した愛知大学野球春季リーグ1部で、聴覚障害のある選手がデビューする。愛知大3年の鍵谷(かぎたに)拓也投手(20)=愛知県安城市出身。今季初めて先発のマウンドを任されるようになり「一戦一戦、集中して優勝に貢献する」と意気込んでいる。(平野梓)

 173センチ、67キロの体から最速142キロの直球を繰り出す本格派右腕。県立安城東高校から愛知大に入学し、昨季までリーグ戦の登板はなかったが、縦に鋭く落ちる変化球スプリットを昨年末に体得して成長。投球の幅が広がり、3月の練習試合で結果を出した。八田剛監督は「打ち取る投球ができるようになり、先発陣の軸にするつもり」と期待する。

 「障害を理由に野球をやめることは絶対なかった」という鍵谷投手。先天性の難聴で両耳は全く聞こえず、3歳の時に人工内耳を頭の中に埋め込んだ。野球を始めたのは小学2年。5年生の時、先天性難聴を乗り越えて中日ドラゴンズに入団した石井裕也投手(現日本ハム)から、友人を通じて「鍵谷君へ」とサインを贈られた。「同じ障害のある人がプロの世界で頑張っている姿が励みになった」

 耳にかけたイヤホンで音を拾うが、周りに雑音があると聞き取りづらい。学校で友達との会話の輪に入れず「楽しそうでいいな」と思う時もあった。だが、野球ではマウンドに立つと、監督の指示も内野手が駆け寄って伝えてくれる。仲間に支えられ、「野球をしている時が一番楽しい」と笑顔を見せる。

 イヤホンは水に弱く、3月の練習試合で雨が降った時は外して登板した。何も聞こえない中での投球は高校時代に1度だけ経験した。「うまくプレーできるか不安で怖かった」。しかし、野手たちが身ぶりや口を大きく開けて「球が高めに浮いてる。低めに」「楽に投げて」と声をかけてくれ、いつも通りに試合を運べた。

 「周りはいい人ばかり。協力があるから野球ができる」と感謝する。3月下旬から右肘痛で投球練習を控えており、初登板は4月下旬になる見込み。「1部で投げるのが楽しみ。1日でも早く治したい」

 愛知大は昨春のリーグ戦を制し、神宮球場などで行われた全日本大学野球選手権に出場。先輩が大舞台で投げる姿を見て「いつかは自分も投げたい」の思いを募らせてきた。エース格となった今季、自分の手で神宮への扉を開く。

(2014年4月10日 中日新聞夕刊11面より)

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