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中日新聞掲載の大学記事

2014.01.14

名大に脳研究新拠点 女性教授ら米計画と競う

 脳の仕組みを解明するプロジェクト構想が今年、名古屋大大学院で動きだす。中心となるのは、小さな生物を使って脳の神経回路を調べている女性教授ら。研究室が近く、互いの成果などを話し合ううちに、協力して本格的な国際拠点を作ることになった。他大学や海外の研究者と連携して、音や気温などの信号が伝わる仕組みや、脳が言語をつかさどる構造の解明を目指す。(北島忠輔)

 構想は理学研究科の森郁恵(56)、上川内あづさ(38)両教授と坂内博子特任講師(41)が立案した。

 森教授は昨年、脳の分野で優れた業績を挙げた研究者に贈られる時実(ときざね)利彦記念賞を女性で初めて受賞。上川内教授と坂内特任講師も日本神経科学学会奨励賞を受賞するなど、脳研究の最前線を走る女性科学者だ。

 分野の近い3人が名大に集結したのは偶然だった。同じ棟に研究室を持つことから自然に意見を交わす間柄になり、「女性主導で国際研究拠点を作ろう」と意気投合した。

 3人の共通点は、ハエや小魚など小さな実験動物を使った脳の分析。森教授は体長1ミリの線虫、上川内教授はショウジョウバエ、坂内特任講師はゼブラフィッシュを用いて、気温や音など外からの信号が神経と神経をつなぐシナプスを通って伝わる仕組みを研究している。

 脳の研究をめぐっては、オバマ米大統領が2013年、「今後10年で脳の全容解明を進める」と宣言。マウスを使って、哺乳類の神経回路を解き明かす計画が動き始めた。

 マウスの脳は7000万個以上の神経細胞から作られている。構造も複雑で、信号の経路を解明するのは難しい。線虫やハエは神経細胞の数が少なく、回路が単純なため、脳の仕組みの本質が見えやすいというメリットがある。

 森教授は「ゲノム(全遺伝情報)の解析を最初に終えたのは線虫。それが人間のゲノム解析に役立っている。それらの脳を研究することで、神秘に包まれた人間の脳の基本原理がわかるはず」と意気込む。

 構想には愛知県岡崎市の自然科学研究機構生理学研究所や豊橋市の豊橋技術科学大などの研究機関に加え、脳に関する著書の多い東京大の池谷裕二准教授ら先端研究に携わる研究者が参加。海外からも神経科学分野の研究者を招く。

 3月に発足を記念する講演会を名大で開催。9月には国際シンポジウムを予定している。

【米国の脳研究(ブレーン・イニシアチブ)】 オバマ米政権が2013年4月に打ちだした脳の仕組みを解明する国家プロジェクト。100億円規模の予算を投じて脳細胞や神経回路の仕組み、脳と人間の行動との関係などの解明を目指す。米国内外から科学者や医師、技術者などの専門家を動員して分析を進め、アルツハイマー病や自閉症などの治療法確立に役立てる。1990年代に世界の研究者が共同で取り組んだ人間のゲノム(全遺伝情報)を解読する計画に匹敵する大規模プロジェクトになるとみられている。

(2014年1月14日 中日新聞朝刊1面より)
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