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中日新聞掲載の大学記事

2013.03.01

研究生活の悩み分かち合い社会へ 聴覚障害 理系の輪 学生団体「DSO」

■8、9日に交流会 中高生参加呼びかけ

 聴覚に障害のある理系大学生らがつくる学生団体「Deaf Science Organization(DSO)」が、実験など研究生活上の悩みを語り合う交流会を、8、9の両日、名古屋市緑区で開く。代表の名古屋大大学院工学研究科2年、坪井泰樹(たいき)さん(24)は「仲間がいれば悩みの多くは乗り越えられる」と大学の理系を目指す中高生の参加を呼び掛けている。

 生まれたときからほとんど耳の聞こえない坪井さんは2011年12月、各地の理系学生らに呼び掛けて団体を結成した。メンバーは東京や京都、長野などの大学で学ぶ30人だ。

 実験を避けて通れない理系学生にとって、耳が不自由なことで不都合を感じるケースは多い。

 坪井さんが07年に名古屋大工学部へ入学した時は、同大学の聴覚障害者の学生は4人目で、大学による障害学生支援も始まったばかりだった。

 講義には、大学が派遣する「ノートテイカー」と呼ばれるスタッフと一緒に出席し、内容を書き取ってもらい、それを見て理解していく。しかし実験では、説明された手順を正確に把握できないこともある。換気できない場所で薬品を使ってしまい、危険な目に遭いそうだったこともある。

 理系特有の苦労が多いが、周囲に理系の聴覚障害者はいなかった。出会いを求めてろう学生の全国組織に入ってみたが、福祉や教育を学ぶ文系の学生が多く、悩みを分かち合えなかった。理系の専門用語を伝える手話がないことも議論したかったが、話せる相手がいなかった。

 「孤独を感じた」という坪井さん。インターネットなどで仲間を募って設立したDSOでは、月に1、2度、ネットで情報交換して互いに励まし合い、刺激し合うことができた。

 「学生生活で1人悩み苦しんだことの多くは、理系分野を学ぶ同世代の仲間や先輩とのつながりがあれば解決できたことだった」と今では思う。

 8日から緑区の市青少年宿泊センターで開く交流会は、日ごろネット上の付き合いの各地の学生が集まって合宿して懇親を深めるのと同時に、自分たちの経験を理系進学を考える聴覚障害のある後輩に伝えるのが目的だ。

 研究生活をまっとうして坪井さんは4月から大手製薬会社に就職する。「自分のできることの中で、ベストを尽くすことが大切」と後輩たちにエールを送り、交流会への参加を呼び掛ける。

 問い合わせは、DSO事務局(dso.world@gmail.com)へ。

(2013年3月1日 中日新聞夕刊13面より)
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