■ビデオで売り込み　誘われたトライアウトで俊足発揮！合格
　「関東や関西の選手に負けたくない」

　社会人ラグビー、トップリーグ（ＴＬ）のヤマハ発動機（浜松市）に来季、愛院大のＷＴＢ伊東晋吾（２２）＝愛知県日進市出身＝が入社する。スカウトされて入る選手が多い中、自ら売り込んでトップリーガーの座をつかんだ珍しい経緯をもつ男は「関東や関西の選手に負けたくない」と１年目での試合出場を目指す。

■華やかさ無縁男

　「東海のレベルは（関東や関西より）少し落ちるが、同じポジションの同期には負けたくない」。東海リーグからは決して多くはないＴＬ入り。国内最高峰の舞台に足を踏み入れる伊東は不安を打ち消すように体づくりに励んでいる。

　「最近では珍しい外で勝負できるＷＴＢ。流れの中でボールを持てばゲインが切れる」と愛院大の小沢良太コーチ（２６）が評する逸材だが、これまで華やかさとは無縁だった。中学時代は野球部。「硬式が怖かった」と野球をあきらめた高校で選んだのがラグビーだった。「人を抜いてトライしたときが何よりうれしかった」

　高校３年時は花園を目指したが愛知県予選８強止まり。関東の大学進学を勧められたが、無理だと思い東海リーグに属する愛院大を選んだ。大学では２年でメンバー入りし、３年でスタメンに定着。しかしリーグ優勝はできず「ラグビーは大学でけりをつけて、サラリーマンになろう」と考えていた。

　転機は大学３年のとき。選ばれた愛知選抜でのプレーを見ていた社会人チームのスカウトに「来年も見てるから頑張れよ」と言われた。「そのひと言で、上でやりたいという意識が出てきたんです」

　とはいえ、関東や関西の大学と比べてレベルが落ちる東海リーグでは社会人チームにアピールする機会は少ない。そこで伊東が取ったのが売り込み作戦。採用担当者に自分のプレーのビデオを送る手を思い付いた。最初に選んだのが「（ジャージーの）水色が好きで、高校時代に試合を見てファンになった」というヤマハ発動機だった。

　目に留まりトライアウト（入団テスト）の誘いが来たが、今度は不安が襲った。「自分はＴＬでやれるほどの選手なのか」。後押ししたのは大学の仲間。「後悔するくらいなら受けてみろよ」。その言葉で吹っ切れた伊東は昨年５月のトライアウトで俊足を発揮、見事に合格を勝ち取った。

　簡単に通用する世界でないのは分かっている。栄徳高、愛院大の先輩で３年前にサントリーに入った佐合からは「１年目は絶対に苦しむ」と言われた。不安を打ち消すのはトレーニングのみ。合格後の１年足らずで７キロ増量した。最近は体の重さにも慣れ、本来のスピードも戻りつつある。

　１年目の目標はＴＬ出場。「トップリーガーのＷＴＢを抜いてトライしてみたい。いずれは日本代表になりたい」と夢は広がる。入寮は３月上旬の予定。シンデレラストーリーが幕を開ける。　（高橋雅人）

■部存続「チャンス」

　伊東が入るヤマハ発動機は昨年１１月、来季はプロをなくし、社員選手だけで臨むことを表明した。しかし、今年になって、来季監督として堀川前監督が復帰し、外国人選手も残す方向で調整していることが判明。伊東によると、会社からは「仮にトップリーグから落ちても、部がなくなることはない」と説明されているという。ＦＢ五郎丸やＳＨ矢富ら日本人のプロ契約選手の去就は不透明だが、伊東は「自分にとってはチャンス」と前向きにとらえている。

■愛院大首脳も期待

　伊東に対しては愛院大首脳陣の期待も大きい。高田正義監督（４５）は「東海リーグとして、ＴＬの選手が出るのは誇り。チームの原動力になってほしい」。小沢コーチも「体が大きくなって、突破に力強さも出てきた。コンタクトなど課題はあるが、経験を積めばＴＬでも問題ない」と太鼓判を押す。

　▼伊東晋吾（いとう・しんご）　１９８７年８月３１日生まれの２２歳。愛知県日進市出身。１７２センチ、８５キロ。ポジションはＷＴＢ。愛知・栄徳高１年でラグビーを始める。高校時代は全国大会の出場歴なし。０６年に愛院大進学。４年時には東海リーグ２位で全国地区対抗ラグビーに出場。８年ぶり２度目の優勝に貢献した。代表歴はない。４月にヤマハ発動機に入社予定。

　◆東海リーグ出身のＴＬ選手　名城大出身の藤井監督が指揮する福岡サニックスが最も多くＰＲ杉浦（愛工大）、山際（中京大）、ＬＯ伊達（愛院大）、ＷＴＢ園田（同）、菅（名商大）の５人が所属。ほかにサントリーのＦＬ佐合（愛院大）、トヨタ自動車のＰＲ長尾（名城大）、ホンダのＷＴＢ前田（愛院大）、ＦＢ谷口（名経大）がいる。

（写真）全国地区対抗大学ラグビーで突破する伊東（右）。トップリーグでの活躍に期待がかかる＝名古屋市の瑞穂球技場で

（2010年2月3日　中日スポーツ11面より）