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中日新聞掲載の大学記事

2017.01.04

臓器提供 官学で命つなげ 愛知4大学と知事 NPO設立へ

 脳死段階での臓器提供が伸び悩む中、愛知県と県内4大学のトップが3月までに、NPO法人「臓器提供推進あいちの会」(仮称)を設立する。家族の承諾だけでの臓器提供ができるようになった2010年の改正臓器移植法施行で提供者数は急増したが、国際的には依然として極めて低い水準。脳死移植を可能とした法の施行から20年という節目の年に、増加への鍵を握る医師への働きかけを強めるなど「愛知モデル」の仕組みをつくり、全国に広げていく考えだ。(稲田雅文)

 国内の脳死段階での臓器提供は1997年の臓器移植法施行で可能になった。ただ、本人の書面による意思表示と家族の承諾が必要だったため、件数は年間10件前後にとどまっていた。要件を緩和する2010年の改正法施行で、年間60件程度まで伸びた。しかし、移植希望登録者は約1万4000人。実際に手術を受けられるのは年間300人余りで、多くの患者が手術を待ったまま亡くなっている。

 1990年代前半、愛知県は心停止後に摘出する腎臓提供が全国最多だった。その地域から臓器提供を増やしていくのが、NPO設立の狙い。最高顧問を大村秀章知事が務め、名古屋大の松尾清一、名古屋市立大の郡健二郎、愛知医科大の佐藤啓二、藤田保健衛生大の星長清隆の各学長が役員となる。官学が連携して臓器提供を増やす仕組みづくりに乗り出す。

 大村知事は自民党の衆院議員時代に臓器移植法の改正に向けて尽力するなど臓器移植への理解が深く、移植医らからの呼び掛けに応じ、県のトップとしてNPOに参加することを決めた。

 県にはPR面での後押しを期待する。運転免許証に臓器提供の意思表示を記入する欄が設けられていることから、まずは県運転免許試験場での啓発活動に力を入れる方針だ。

 提供者の家族と接する脳神経外科医や救急医の啓発にも取り組む。患者が脳死状態になった場合、主治医となる脳神経外科医らが臓器提供という選択肢があることを家族に伝える。

 NPOには、臓器を受け取る側の移植医だけでなく、脳神経外科医や救急医も加わり、定期的に会合を開いて家族への伝え方や手順の標準化など、臓器提供を増やす仕組みについて研究する。設備や人員の不足など環境面の課題も洗い出す。

 事務局長を務める予定の剣持敬・藤田保健衛生大教授(移植・再生医学)は「数値目標を定めて、臓器提供を増やしていきたい。愛知の取り組みをモデルケースにし、全国の臓器提供も増やしていきたい」と話している。

■法施行20年 基準厳しく日本進まず

 先進国の中で、日本の臓器提供の少なさは際立つ。各国の臓器提供数を調べている国際機関の統計によると、2015年の人口100万人当たりの臓器提供者数が最も多かったのは、拒否の意思表明がなければ提供者とみなす制度があるスペインの39.7人。これに対し日本は0.7人にとどまる。

 1968年の国内初の心臓移植で、提供者が本当に脳死の状態だったかが疑問視された疑惑による医療不信をはじめ、世界的にも厳しくなった脳死の判定基準や「脳死は人の死か」との議論、国民の死生観などが理由となっている。

■臓器移植法

 1997年施行で、臓器を提供する場合に限り、脳死を人の死として、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓(すいぞう)、小腸などの摘出が可能になった。2009年の法改正(10年に施行)では家族の承諾で提供できるようになり、15歳未満からの提供も可能になった。提供数は改正法施行前の13年間で86件だったが、改正後の6年半で約340件に増加。しかし、大幅に不足する状況は変わっていない。

(2017年1月4日 中日新聞朝刊29面より)
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