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中日新聞掲載の大学記事

2015.10.22

電子ビーム装置小型化 名大発ベンチャー 天野研究室と協力 工作機械など開発へ

 名古屋大発のベンチャー企業が、電子顕微鏡や3Dプリンターの中核部品に使う次世代型の電子ビーム発生装置の実用化に乗り出した。ノーベル物理学賞を受賞した名大の天野浩教授の研究室と共同開発した半導体を使い、従来の装置よりも小型化し、長寿命化することに成功。この装置を搭載した計測機器や工作機械などの共同開発を目指している。(石原猛)

 このベンチャー企業は、名大の西谷智博特任講師と元名大の産学官連携推進本部・技術移転マネージャーの鈴木孝征氏が7月に設立した「フォト・エレクトロン・ソウル」(名古屋市)。

 電子ビームは、ブラウン管テレビや電子レンジにも用いられ、物質に当たって光や熱を放ったり、物質を結合したりする。3Dプリンターでは、電子ビームを素材に当てて溶かして造形。1万分の1ミリ以下の大きさの物体を観察できる電子顕微鏡では、物体に照射した電子の動きを見て形状を観察するのに使われる。

 今回の電子ビーム装置は、電子の発生源となる半導体に、天野研究室と共同開発した窒化ガリウムを採用。耐久性を従来の20倍以上に高め、長寿命化した。電子ビーム装置も、従来は1部屋を占拠するほどの大きさだったが机に載るほどまで小型化、測定機器や工作機械に搭載できるサイズにした。

 開発した装置は電子ビームの力が強いのも特徴で、金属用の3Dプリンターに使うと、電子ビームの照射面積を1点に集中させることで、細密な造形が可能になる。電子顕微鏡に使った場合は、現在は30分ほどかかる観察の間隔を、理論上は0.1秒以下に短くできる。従来のように観察対象の動きを止める必要がなく、物質の反応する過程をリアルタイムで観察でき、創薬分野で研究効率を向上させる効果が期待できる。

 装置の特許を持つ名大から、研究成果を活用する許可を得たほか、10月には日本政策金融公庫の融資を受け、本格的な事業に乗り出した。ベンチャーの社長を務める鈴木氏は「名大は30年近く電子ビームの研究を続けており、技術力は世界のトップクラス。ベンチャーとして成功するだけでなく、世界の産業分野にインパクトを与えるような事業にしたい」と意気込む。

(2015年10月22日 中日新聞朝刊9面より)

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