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中日新聞掲載の大学記事

2014.09.11

レスリング世界選手権 浜田初V 登坂2連覇 土性は銀メダル

 【タシケント(ウズベキスタン)=共同】世界選手権第3日は10日、当地で女子4階級が行われ、48キロ級の登坂(とうさか)絵莉(至学館大)=富山県高岡市出身=が2連覇、非五輪階級の55キロ級の浜田千穂(日体大)が初優勝を果たした。69キロ級の土性(どしょう)沙羅(至学館大)=三重県松阪市出身=は銀メダルとなった。

 21歳の登坂は1回戦から3試合連続でテクニカルフォール勝ち。準決勝で北朝鮮選手を下し、決勝はポーランド選手に10−2で完勝した。21歳の浜田は初戦の2回戦から3試合を勝ち、決勝でロシア選手に競り勝った。

 前回大会で67キロ級3位だった19歳の土性は3試合を勝って迎えた準決勝でロンドン五輪72キロ級女王のナタリア・ボロベワ(ロシア)を破ったが、決勝でドイツ選手に屈した。

 非五輪階級の60キロ級の坂上嘉津季(かつき、至学館大)は2回戦でフォール負けし、敗者復活戦も敗れた。女子はリオデジャネイロ五輪で6階級が行われるが、世界選手権では55キロ級と60キロ級も含めた8階級で争われる。

■登坂 正面突破で大差

 初制覇の日にすべて解放されなかった喜びが、1年後の勝利の瞬間にすべて押し寄せてきた。「前回よりずっとうれしい。前回、出てこなかった強い選手が来た中で勝てたのは自信になる」。女子48キロ級の連覇に挑んだ登坂は、女王らしい力勝負を制した満足感をガッツポーズで表した。

 昨年、出産で休養したロンドン五輪2位のマリア・スタドニク(アゼルバイジャン)が最大の強敵になるとみていたが、準決勝でその敵を破ったイオナニナ・マトコワスカ(ポーランド)が決勝へ。腕をがっちりつかみ、足を取られても強引に返しに行く相手のスタイルに対し、選んだのは正面突破。ガードを振りほどいて次々とタックルを決め、10−2の大差で勝った。「去年よりも攻めを重視した戦いができた」

 昨年、頂点に立ったことでマークが厳しくなると自覚していた。昨年はカウンター気味の右足タックルが主な武器。今年は「どちらの足にも触れるぞ、というのを見せて意識を分散できれば」と、右足に手を伸ばしながら相手の左横に付いて逆の足を取る「ハイクラッチ」を練習した。日本女子きっての技巧派、伊調馨(ALSOK)の得意技で攻撃の幅が広がり、試合中の表情にもゆとりが生まれた。

 7月に頸椎(けいつい)を痛め、3週間ほどタックルを試せなかったが「試合前にガツガツやっても変わらない」と達観。この日は準決勝のあと「大丈夫です」と首をぐるりと回した。「勝ち続けるのは難しいが、(吉田)沙保里さんに近づけるよう頑張る」。細心さと度胸を併せ持つ21歳が再び世界を極めた。(タシケント・鈴木智行)

 登坂絵莉(とうさか・えり=女子48キロ級) 世界選手権は12年に2位、13年に初制覇。13年ユニバーシアード夏季大会で金メダル。全日本選手権は2連覇、全日本選抜選手権は3連覇している。仁川アジア大会代表。愛知・至学館高出、至学館大。152センチ。21歳。富山県出身。

■土性 マットの父に報いた

 幼かった自分を厳しく鍛えてくれた恩師は、1年前と同じ声をかけてくれるだろうか。「バカだな」。そして「来年があるぞ」。女子69キロ級の決勝に進んだ土性は、昨年の67キロ級準決勝をなぞるような逆転負け。前回、慰めてくれたジュニア時代のコーチで吉田沙保里の父、故栄勝さんに成長の跡を示したかったからこそ涙が止まらなかった。

 「悔しいです」。2回戦は昨年の準決勝で敗れたアリナ・マキニア(ウクライナ)、準決勝は五輪金メダリストのボロベワに勝った。決勝で勝ち名乗りを受ける資格は十分にあったが、「最初のタックルで左足を痛めた」。動きが鈍くなったところで得点され、残り約50秒で1点リードしながら残り十数秒で逆転のタックルを食らった。

 今年3月にマットの父が急逝。白い頬をぬらしたあと、3位だった昨年の雪辱に燃えた。「あんな思いはもう嫌」。敵に逆襲されないよう、横からのタックルや相手の体を持ち上げる動きなどを研究した。大半の選手に試合時の体重と身長で劣る中、世界の上位経験者がひしめくブロックから決勝へ。けがに泣いたが、身長159センチの19歳は確かに強くなった。「世界一の選手に勝っても優勝できなければうれしくない。来年に向けて頑張る」。か細い声ながら、あの日の師のメッセージにまた答えた。(鈴木智行)

■浜田 初挑戦 勢い乗る

 つぶらな瞳に秘める闘志の源は、男の中で鍛えた経験にある。「沙保里さんがいたからではなく、支えてくれた人たちのためにこの階級で勝ちたい」。五輪では行われないが、吉田沙保里(ALSOK)が昨年まで君臨した女子55キロ級で世界に初挑戦した浜田が頂点に立った。「五輪の次に大きい大会に優勝できてうれしい」

 この日の4試合はいずれも後半に本領を発揮した。「緊張して最初は相手を見てしまうことが多かった。第2ピリオド(P)になって勝ちたい気持ちが先行した」。いずれも第1Pを0−1で折り返しながら、疲れの見えた相手にタックルを決めて逆転。準決勝では2年前に吉田と決勝を戦った米国選手に勝利。決勝も「ここまで来たら金メダル」とロシア選手を破った。

 神奈川県出身の21歳は「55キロ級の吉田」の最後の相手。昨年末の全日本選手権の決勝で、あと少しで逆転勝ちというところまで追い詰めた。母校の東京・日本工大駒場高と日体大は女子部員が少なく、ここ数年は男子と組み合う毎日。女子の感覚をつかむ機会は代表合宿などに限られる中、第一人者の背中を追ってきた日々が報われた。(鈴木智行)

 浜田千穂(はまだ・ちほ=女子55キロ級) 昨年の全日本選手権で2位。ことしは全日本選抜選手権を制し、世界学生選手権とゴールデングランプリ決勝大会で優勝した。日本工大駒場高出、日体大。160センチ。21歳。神奈川県出身。

(2014年9月11日 中日新聞朝刊24面より)
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