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2011.12.30
避難家族の日常撮った 名古屋学芸大学生が映画 長男誕生や一時帰宅
愛知県日進市の名古屋学芸大の学生たちが、福島第1原発の事故で福島県双葉町から愛知県安城市に避難した大沼勇治さん(35)と妻せりなさん(36)の姿を追ったドキュメンタリー映画を制作した。慣れない土地での生活と長男の誕生、警戒区域に指定された故郷への一時帰宅の様子などを生々しく追った作品。映画は国内外の映画祭に出品される予定だ。(日進通信部・坪井千隼)
衣服が散乱する自宅室内、ひび割れた道路、雑草が生い茂る小学校の校庭−。映像には事故発生から時間が止まった双葉町の様子が映し出されていた。
警戒区域への帰宅が2時間だけ許可された7月26日。同行を許可されなかった学生の代わりに、大沼さんは小型カメラで一時帰宅の様子や故郷の風景を撮影した。「もうここには帰って来られないかもしれない」。やるせない思いが映像から伝わってくる。
映画は52分、題名は「あなたへ」。担当教授の勧めで映像メディア学科4年生12人が制作した。監督の戸野部美奈さん(21)は「被災地の映像だけでは震災被害の現状に迫れない。他地域に移り住み普通の生活を送っているように見える被災者の姿こそ伝えたかった」と振り返る。
大沼さん一家は3月末、第1原発から4キロ離れた双葉町の自宅から親戚の勧めで安城市の県営住宅に移った。6月20日には第1子勇誠(ゆうせい)君が誕生した。
学生たちは本紙の記事で大沼さん一家を知り撮影を依頼、快諾を得た。7〜8月に一家に密着し、周囲の人たちとのかかわりを中心に撮影。大沼さんが撮った映像や夫妻の回想も作品に盛り込んだ。題名は、勇誠君を含めて映画を見る人に被災者の現状を伝えたいとの思いを込めた。
共働きだった夫妻は、避難で会社勤めの仕事を失った。なじみのない愛知県での暮らしに当初は戸惑った。だが近所の人や民生委員らが子育てを手助けしたり、日用品を差し入れたりと熱心に支援。映画では地域住民との交流の中で、笑顔が戻っていく夫妻の姿が生き生きと描かれている。また一時帰宅の場面では放射性物質で汚染されたままの故郷の惨状と、被災者の無念さを伝える。
12月15日にあった学内試写会には一家も参加。大沼さんは「これからもずっと震災に向き合っていくが、一番大変な時期を映像で息子に伝えることができる」と完成を喜んだ。
■海外出品を計画
映画は来年のソウル国際女性映画祭などに出品する予定。戸野部さんは「家族の絆や地域の人たちとの支え合いを見てもらいたい」と話す。
一般向けには、来年1月11〜15日に名古屋市東区の愛知県美術館である名古屋学芸大の卒業制作展で上映される。
(2011年12月30日 中日新聞朝刊19面より)
衣服が散乱する自宅室内、ひび割れた道路、雑草が生い茂る小学校の校庭−。映像には事故発生から時間が止まった双葉町の様子が映し出されていた。
警戒区域への帰宅が2時間だけ許可された7月26日。同行を許可されなかった学生の代わりに、大沼さんは小型カメラで一時帰宅の様子や故郷の風景を撮影した。「もうここには帰って来られないかもしれない」。やるせない思いが映像から伝わってくる。
映画は52分、題名は「あなたへ」。担当教授の勧めで映像メディア学科4年生12人が制作した。監督の戸野部美奈さん(21)は「被災地の映像だけでは震災被害の現状に迫れない。他地域に移り住み普通の生活を送っているように見える被災者の姿こそ伝えたかった」と振り返る。
大沼さん一家は3月末、第1原発から4キロ離れた双葉町の自宅から親戚の勧めで安城市の県営住宅に移った。6月20日には第1子勇誠(ゆうせい)君が誕生した。
学生たちは本紙の記事で大沼さん一家を知り撮影を依頼、快諾を得た。7〜8月に一家に密着し、周囲の人たちとのかかわりを中心に撮影。大沼さんが撮った映像や夫妻の回想も作品に盛り込んだ。題名は、勇誠君を含めて映画を見る人に被災者の現状を伝えたいとの思いを込めた。
共働きだった夫妻は、避難で会社勤めの仕事を失った。なじみのない愛知県での暮らしに当初は戸惑った。だが近所の人や民生委員らが子育てを手助けしたり、日用品を差し入れたりと熱心に支援。映画では地域住民との交流の中で、笑顔が戻っていく夫妻の姿が生き生きと描かれている。また一時帰宅の場面では放射性物質で汚染されたままの故郷の惨状と、被災者の無念さを伝える。
12月15日にあった学内試写会には一家も参加。大沼さんは「これからもずっと震災に向き合っていくが、一番大変な時期を映像で息子に伝えることができる」と完成を喜んだ。
■海外出品を計画
映画は来年のソウル国際女性映画祭などに出品する予定。戸野部さんは「家族の絆や地域の人たちとの支え合いを見てもらいたい」と話す。
一般向けには、来年1月11〜15日に名古屋市東区の愛知県美術館である名古屋学芸大の卒業制作展で上映される。
(2011年12月30日 中日新聞朝刊19面より)