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2011.09.13
博物館、美術館 大学生とコラボ もっと若者の来館を
■寸劇、ワイドショー風解説…
若者にはお堅いイメージが強い博物館や美術館に、大学生主体の活動の場が整いつつある。若者にもっと足を運んでほしい館側と教育、地域貢献に生かしたい大学側の思惑が一致した結果だ。行事の企画運営が主だが、館が仕事を用意する“お客さん”ではない。学生ならではの勢いと感性に学芸員たちも刺激を受けている。(谷村卓哉)
8月6、7日の夜。名古屋市博物館で、展示室をあんどん形照明だけで照らす「ナイトミュージアム」が行われた。地元商店街などと共催した夏祭りの一行事。名古屋市立大の阪井芳貴教授が担当する「社会調査実習」の受講生約10人を核に、延べ約170人の大学生が運営に携わった。
「弥生人の秘密の生活、始まり始まり。今夜だけ、わが家にご招待。入ってみたい人、手を挙げて」。常設展示室にある竪穴住居の復元模型の中で貫頭衣姿の学生たちの寸劇が始まった。「かわいい子いねえか。君、ウチ来るかあ」。怪しいなまり方で正面にいた子どもに話し掛けると、見事に逃げられ「嫌かあ」。観客からどっと笑いが起こった。導入の紙芝居、展示物の源氏物語図屏風(びょうぶ)をテーマにしたワイドショー風解説もあり、反応は上々。2日間で約1300人に上った客の誘導もこなした。寸劇班の名市大2年田中雅之さん(19)は「ぎりぎりまでネタを考えた。お客さんが、博物館にまた来たいと思ったら、してやったり」。
発端は、3年前に阪井教授のグループが市内の大学生約500人を対象に行った社会調査だった。8割近い学生が同館に行ったことがないという驚きの結果。目と鼻の先の名市大も同じ傾向で、今回、学生の統括を担った2年伊藤慎治さん(21)も「空き時間の行き先として選択肢になかった」という。若者が博物館に触れるきっかけづくりが急務と、昨年始めたのが学生が運営するナイトミュージアム。1年目と異なり、立案から実施までを委ねた武藤真学芸員は「学生を一番知るのは学生。ここは全部まかせようと思った。期待通り、展示を見ながら人とも触れ合える魅力的な場にしてくれた」と振り返る。
学生の活躍の場はさらに広がりそうだ。芽の1つが、今回の参加者のうち約30人が集まり名市大に発足した「博物館サポーター」。同館のPRや11月に開くワークショップの準備を始めており、九州国立博物館の学生ボランティア組織との交流も進める。指導する阪井教授は「年間を通じ、学生と博物館をつなぐ活動ができるようにしたい。態勢が整えば他大学の学生にも参加を呼び掛ける」と意気盛んだ。
■学芸員にも刺激
名古屋ボストン美術館では2004年度から、名古屋芸術大で美術教育を学ぶ学生たちが展覧会行事の企画運営を続ける。昨年は風景画展で小学校低学年向けのワークショップを開催。作品の世界に入ったらどんなにおいがして、どんな音が聞けるのだろう−。子どもが感じたストーリーを絵本にする好企画だった。
学生たちが助言を受けながら実施案を練り上げる。井口智子学芸員は「行事名の付け方や作品の見方など、私たちにはない視点にハッとさせられることも。活動を通じ、若い人にもっと美術館に親しんでもらえたら」。学生とのキャッチボールは学芸員の資質向上にも役立つという。17日に始まる「恋する静物」展に向けての検討が始まっており、来年1月初旬に行事を開く予定だ。
14年開館予定の三重県立新博物館も大学生との協働を模索。2年前には、県と三重大が連携協定を結んでいる。県新博物館整備推進室の担当者は「教師を目指す教育学部の学生さんを中心に、運営面で密接に関わってもらえるような仕組みを検討したい」と話す。
(2011年9月13日 中日新聞朝刊なごや東版より)
若者にはお堅いイメージが強い博物館や美術館に、大学生主体の活動の場が整いつつある。若者にもっと足を運んでほしい館側と教育、地域貢献に生かしたい大学側の思惑が一致した結果だ。行事の企画運営が主だが、館が仕事を用意する“お客さん”ではない。学生ならではの勢いと感性に学芸員たちも刺激を受けている。(谷村卓哉)
8月6、7日の夜。名古屋市博物館で、展示室をあんどん形照明だけで照らす「ナイトミュージアム」が行われた。地元商店街などと共催した夏祭りの一行事。名古屋市立大の阪井芳貴教授が担当する「社会調査実習」の受講生約10人を核に、延べ約170人の大学生が運営に携わった。
「弥生人の秘密の生活、始まり始まり。今夜だけ、わが家にご招待。入ってみたい人、手を挙げて」。常設展示室にある竪穴住居の復元模型の中で貫頭衣姿の学生たちの寸劇が始まった。「かわいい子いねえか。君、ウチ来るかあ」。怪しいなまり方で正面にいた子どもに話し掛けると、見事に逃げられ「嫌かあ」。観客からどっと笑いが起こった。導入の紙芝居、展示物の源氏物語図屏風(びょうぶ)をテーマにしたワイドショー風解説もあり、反応は上々。2日間で約1300人に上った客の誘導もこなした。寸劇班の名市大2年田中雅之さん(19)は「ぎりぎりまでネタを考えた。お客さんが、博物館にまた来たいと思ったら、してやったり」。
発端は、3年前に阪井教授のグループが市内の大学生約500人を対象に行った社会調査だった。8割近い学生が同館に行ったことがないという驚きの結果。目と鼻の先の名市大も同じ傾向で、今回、学生の統括を担った2年伊藤慎治さん(21)も「空き時間の行き先として選択肢になかった」という。若者が博物館に触れるきっかけづくりが急務と、昨年始めたのが学生が運営するナイトミュージアム。1年目と異なり、立案から実施までを委ねた武藤真学芸員は「学生を一番知るのは学生。ここは全部まかせようと思った。期待通り、展示を見ながら人とも触れ合える魅力的な場にしてくれた」と振り返る。
学生の活躍の場はさらに広がりそうだ。芽の1つが、今回の参加者のうち約30人が集まり名市大に発足した「博物館サポーター」。同館のPRや11月に開くワークショップの準備を始めており、九州国立博物館の学生ボランティア組織との交流も進める。指導する阪井教授は「年間を通じ、学生と博物館をつなぐ活動ができるようにしたい。態勢が整えば他大学の学生にも参加を呼び掛ける」と意気盛んだ。
■学芸員にも刺激
名古屋ボストン美術館では2004年度から、名古屋芸術大で美術教育を学ぶ学生たちが展覧会行事の企画運営を続ける。昨年は風景画展で小学校低学年向けのワークショップを開催。作品の世界に入ったらどんなにおいがして、どんな音が聞けるのだろう−。子どもが感じたストーリーを絵本にする好企画だった。
学生たちが助言を受けながら実施案を練り上げる。井口智子学芸員は「行事名の付け方や作品の見方など、私たちにはない視点にハッとさせられることも。活動を通じ、若い人にもっと美術館に親しんでもらえたら」。学生とのキャッチボールは学芸員の資質向上にも役立つという。17日に始まる「恋する静物」展に向けての検討が始まっており、来年1月初旬に行事を開く予定だ。
14年開館予定の三重県立新博物館も大学生との協働を模索。2年前には、県と三重大が連携協定を結んでいる。県新博物館整備推進室の担当者は「教師を目指す教育学部の学生さんを中心に、運営面で密接に関わってもらえるような仕組みを検討したい」と話す。
(2011年9月13日 中日新聞朝刊なごや東版より)