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お知らせ  2020.09.12

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ペプチドが担うがん治療の未来 中部大・山本教授が講演 精製のコスト減 ノーベル賞に期待

ペプチド合成について説明する山本教授=春日井市松本町の中部大で

ペプチド合成について説明する山本教授=春日井市松本町の中部大で

 今年のノーベル化学賞の受賞が期待される中部大先端研究センター長・分子性触媒研究センター長の山本尚教授(77)が10日、春日井市松本町の中部大キャンパスで、報道機関向けにペプチド合成を巡る研究成果と医薬品業界にもたらす効果について講演した。(高岡涼子)

 山本教授は、有機化学の分野で世界一権威があるとされる米国化学会の「ロジャー・アダムス賞」を2017年に受賞しており、ノーベル化学賞に最も近い科学者の一人とされる。

 講演では自身が半世紀にわたって研究を続けてきた、ルイス酸という触媒を用いたペプチド合成について解説。アミノ酸にある特定の炭素を反応させることができるルイス酸を用いることで、少ない工程数で純度の高いペプチドを合成でき、コストを従来の1000分の1以下に抑えることが可能になったと指摘した。

 ペプチドをはじめとした中分子医薬品は、副作用の少ない医薬品として注目を集めるが、これまでは純粋なペプチドを得るのに多額の精製費がかかり、1グラム1億円になるものもあったという。山本教授は「抗がん剤治療を数万円まで引き下げることが最優先課題。それができるのはペプチドだけだと思う」と期待と自信を示した。

 このほか、同大の教授ら6人も今後の進展が期待される研究内容を発表した。

 実験動物教育研究センター長の岩本隆司教授は、細胞を傷つけない遺伝子操作について説明。遺伝子を書き換えるゲノム(全遺伝情報)編集は針を用いて試薬を注入し、時間と熟練の技術、高価な設備が必要だったが、電気を用いて試薬を導入する方法を新たに開発し、「人の染色体疾患のメカニズム解明につながる」と訴えた。

 佐藤元泰特任教授(創造理工学実験教育科)は、長期間放射性を持つ「長寿命核分裂生成物」の短寿命化技術について、近い将来に実用化を目指す方針を明らかにした。

 大場裕一教授(環境生物科学科)は、沖縄などに生息するキンメモドキが、発光するために必要なタンパク質をウミホタルから摂取し、蓄えていることを突き止め、「消化器官で分解されづらいタンパク質の仕組みを創薬に応用できるかもしれない」と述べた。

 樫村京一郎准教授(工学部)は、電子レンジの技術「マイクロ波」を製鉄などに活用することで、環境への負荷を減らし、コストを下げられると説いた。

 ペプチド アミノ酸が2~数十個結合したもの。ペプチドがさらに結合し、長い分子になったものをタンパク質と呼ぶ。分子の小さい医薬品は細胞内に入り込んで標的を狙え、経口投与できる一方、副作用が大きい。分子の大きい抗体医薬品は特定の物質に反応するよう作られているため副作用は小さいが、経口投与できず、細胞内には入り込めなかった。ペプチドなどを活用した中分子医薬品は、両者の中間として注目を集め、がん細胞などある特定の標的に作用し、副作用も少ないとされる。

(2020年9月12日 中日新聞朝刊近郊版より)

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