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中日新聞掲載の大学記事

2016.06.07

診断困難な小児疾患 連携 名古屋大など愛知の4大学医学部 解析結果基に症例検討

 1日夜、名大で開かれたプロジェクトチームの初会合。東海3県(愛知、岐阜、三重)から集まった20人が凝視する資料には、原因などが分からない疾患に苦しむ小児4人とその両親らの遺伝子データが記されていた。

 名大は、IRUD−Pの東海3県の拠点。これまでに86件の未診断症例で、患者と両親の検体(約5ミリリットルずつの血液)と臨床データを全国の中心拠点・国立成育医療研究センター(東京)に送り、解析を依頼していた。資料のデータは、それに対する初めての回答。大量の遺伝子情報を解析できる最新機器の次世代シーケンサーで4組の親子の全遺伝子を分析し、見つかった遺伝子異常だ。

 それぞれの主治医も交え、症例の検討が行われた。見つかった遺伝子異常が、病気にどの程度影響しているか、判断が難しいことも多い。遺伝性の疾患の場合は、両親が次の子を産んでよいか迷うことも多く、丁寧なカウンセリングも必要だ。参加者たちはさまざまなケースを想定し、意見を交わした。

 4大学は、以前から希少疾患・未診断疾患の合同研究会を準備しており、それを母体にチームづくりが進んだ。岐阜、三重両大の協力も取り付けた。5月に札幌市で開かれた日本小児科学会では、チームのまとめ役・名市大の斎藤伸治教授(55)が実践について報告。「全国的にも最も進んだ地域連携の取り組み」と高い評価を得た。

 ただ、全遺伝子解析が診断につながるのは、未診断疾患全体の4分の1程度とみられる。それでも、斎藤教授は「わが子の病気が分からないと、両親はたまらなくつらい。4分の1でも大きな成果だ。結論が出なくても、皆で検討することで、よりよい支援ができるはず」と話す。

 4大学による協働には、それぞれの関連病院もプロジェクトに参加できるというメリットもある。各病院の主治医も検討会議に参加し、積極的にかかわることが可能だ。また、一つの大学病院だけで実施するよりも、患者が最寄りの病院にかかり、検体や臨床データを名大が集めて成育医療研究センターに送る形にすれば、患者や家族の負担が少ない上、より多くのデータを得られる可能性もある。

 斎藤教授は「次世代シーケンサーを使わなくても、経験のある専門医なら診断できる症例もある。今後、症例をより分け、早く回答できる体制を作っていくことも可能」と話している。

 原因や治療の進め方が分からない小児疾患を、最新の遺伝子解析技術で解明する国のプロジェクト「小児希少・未診断疾患イニシアチブ」(IRUD−P)が昨年7月にスタートした。これを受けて愛知県内では、名古屋、名古屋市立、愛知医科、藤田保健衛生の4大学医学部の小児科医らが「愛知未診断疾患プロジェクト」を設立。患者や家族を支えるネットワークの構築を目指している。 (編集委員・安藤明夫)

 ■IRUD−P 全国規模で未診断疾患、希少難病の子どもたちの診断を確定し、病態の解明を進める事業。次世代シーケンサーを用いて、患者と家族の全遺伝子を読み取り、原因を探る。解析データの検討会や地域連携の進め方は、各拠点病院に任されている。欧米では、未診断疾患の解析を通じて発達障害の研究や、さまざまな疾患の先進治療、新薬開発をめざす動きが活発。日本も、日本医療研究開発機構(AMED)の重要事業に位置付けている。成人のプロジェクト(IRUD−A)も、今年から始まっている。

(2016年6月7日 中日新聞朝刊19面より)
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